2012年、不妊治療による出生児数は3万7953人で、国内で生まれた子供の27分の1になる(日本産科婦人科学会による)。高齢出産が増加する中で大きく変わりつつある、妊娠・出産を巡る環境について、『卵子探しています 世界の不妊・生殖医療現場を訪ねて』(小学館)の著者でフリージャーナリストの宮下洋一氏と産婦人科医の宋美玄さんが語り合った。
スペイン在住の宮下さんは、日本人女性がバルセロナにはるばるやってきて不妊治療している実態を知り、取材を敢行。世界6か国で、不妊治療の最前線を追った。
一方の宋さんは、いわずと知れた、産婦人科医にして論客。3才の長女に続き、現在2人目を妊娠中で6か月に入ったところだ。
宋:日本では、不妊は病気ではない、という見地から、不妊治療時に健康保険がききません。自治体の助成はありますが、所得制限があって高額です。
宮下:スペインでは、不妊治療は公的な病院だと、40才未満まで無料です(編集部注:ただし、卵子・精子提供の場合は除く)。
フランスでは、43才未満までは国の社会保険が100%カバーしてくれています。
宋:なるほど、海外ではちゃんと国が費用を出してくれるんですね。日本は先進国なのに、自己責任だから自費で治療しなさい、というスタンスです。
宮下:海外では“卵子も老化する”ということが広く認知されています。だから、不妊治療への取り組みも早いですね。海外にいる日本人女性は「(そうした事実を)知らなかった、バルセロナの講演会で知って手遅れだと気づいた」などと言っていましたね。
それから、日本では不妊治療に夫が同行することはあまりないと聞きますが、それは疑問ですね。なぜ日本の女性は、「一緒に行きましょう」とパートナーを誘わないのでしょうか。
宋:日本人男性の大半は変なプライドを持っていて、不妊の原因は妻側にあると思っているようです。精子がなくて子供ができないのは男としてダメ、そんなレッテルを貼られてしまうのを恐れている。
そうしたことを妻側も察知しているから、不妊治療への同行を求めないんじゃないでしょうか。
宮下:海外は、男性と女性の関係の教育がしっかりしている。子育ても男女平等ですから、不妊治療を女性に任せきりにすることはありません。
宋:妊娠って一人でできるものではない。なのに、日本では、すべての責任が女性に押し付けられているように思います。
宮下:今回取材していて、女性がかわいそうだと思ったのは、男性はいつまでも自分の遺伝子を残せるけれど、女性は年齢がいくと自分の卵子で妊娠ができなくなるということ。その結果、男性の理解と協力が得られず、原因のわからぬまま不妊治療を続けているケースがある。そういった男性のせいで、子供が産めないどころか、夫のために離婚さえ考える人もいるんです。
それに、海外に比べて日本では、遺伝子や血筋、血統といったものに対するこだわりがとても強いと感じました。妊娠・出産を語るとき、医学的な話よりも精神論や根性論が多かったのも特徴的です。
宋:出生前診断で赤ちゃんに病気が見つかったとき、日本のお母さんは医師に「私の何が悪かったんですか? 食べ物ですか? 無理に仕事をしたからですか?」と聞いてきます。まるで因果応報のように。そしていまだに、「こうなったのは、お前の家系だな」などと言う男性がいる。一貫して女性に責任が負わされる。妊娠・出産は女性だけでコントロールできるものではないのに――。
※女性セブン2015年9月3日号