【著者に聞け】三浦しをんさん/『あの家に暮らす四人の女』/中央公論社/1620円
【あらすじ】70近い鶴代と37才の佐知の母娘、それに縁あって共同生活を送るようになった37才の雪乃と27才の多恵美。古い洋館に住む女性4人のにぎやかで楽しい毎日に、やがて物騒な事件が勃発する──。
鶴代、佐知、雪乃、多恵美。4人の女が、古い一軒家で暮らしている。名前を見てピンとくる人がいるかもしれない。そう、この本は谷崎潤一郎の『細雪』をふまえているのだ。
「オマージュを書いてくださいと言われていたら、萎縮したかもしれません。女の人の話を書いてほしいという依頼だったので、『細雪』みたいな感じですかね、と打ち合わせで盛り上がったんです。ちょうど『細雪』を再読していたので」(三浦しをんさん、以下「」内同)
あちらは4人姉妹の話だが、こちらの4人は鶴代と佐知が母娘である以外、血のつながりはない。
「自分に姉妹がいないので姉妹のリアリティーがよくわからないのと、家族イコール血縁関係もしくは夫婦だという考え方に、ほんとにそうなのかなと思うところがあって。何だか知らないうちに他人が転がり込み、一緒に住んでる話になりました」
三浦さんも、若いときは親元を離れ自立したかったが、いざひとり暮らしを始め、時間もお金も好きに使えるようになって、逆に自分のためだけに働き続けたり、がんばり続けることは難しいと感じたという。
「結婚して子供を産んで、という人生を望んだことはないんですけど、そういう人間が人とつながって生きていくにはどういう関係があるか、いろいろ考えます。女友達とも、年をとったらみんなで暮らせたらいいねとよく話していて。独身の子ばかりではなく、結婚して子供がいても、いずれ子供は独立するし、平均寿命を考えるとだんなは先に死ぬかもしれませんし」
こんな関係があれば、と思う形を小説に描いた。適度な距離を保ち、「おかえり」「ただいま」と声をかける。さりげなく互いを支え合う暮らしだ。
登場人物で三浦さんが自分を重ねるのは佐知、それとも雪乃だろうか。
「いちばん若い多恵(美)ちゃんとは全然違いますが、佐知と雪乃には投影している部分があります。本を読んだ私の母は、『この鶴代さんて私がモデルのような気がするんだけど』って電話してきました(笑い)」
小説はフィクションだからね、と言って納得してもらったそうだ。
ふつうの3人称で語られていたのが途中で意外な語り手に交代、「えっ?」と驚くうちに元に戻って誰の目から見た物語だったかが明かされる。不思議なできごとや、タイトルの意味もすとんと腑に落ちる。
「日常って、結構、偶然や不思議なことがありますよね。物語には、私たちが生きてる世界と、そうではない世界をつなぐ機能があると思っていて、私たちがこれがふつうと思っている日常にも、ちょっと不思議なことはあるかもしれないよ、という話を書いてみました」
(取材・文/佐久間文子)
※女性セブン2015年9月3日号