インターネット上で偽の母乳を販売していた事件が話題になったが、中国やアメリカ、イギリスでは、盛んに母乳が売買されている。しかし、そんな母乳ビジネスには大きな危険が潜んでいる。医療ジャーナリストの森田豊医師が言う。
「例えばアメリカは、日本より規模も大きく、ビジネスとして確立しているように見えるが、危険性はある。2013年に米国の研究チームがネット上で売買される母乳を調査したところ、75%から有害なバクテリア、64%からブドウ球菌が見つかるなど衛生面での不安が解消されたとはいえません。また母乳の中に牛乳が混入すれば牛乳アレルギーなどを引き起こす危険があり、米国では大問題になっています」
そもそも“誰の母乳かわからない”ことこそに不安があると、産科医の赤岩明さんが指摘する。
「母乳は血液から作られる体液で、血液中の細胞成分を多く含んでいます。そのため、母乳を通じてウイルスや細菌が赤ちゃんに感染して病気になることがあります。匿名やニックネームでやりとりができるネット上の母乳に、安全性は保証されていません」
母乳から赤ちゃんに感染する病気には、エイズを引き起こすHIV(ヒト免疫不全ウイルス)やヒトT細胞白血病ウイルスなどがある。母乳を介して、エイズや白血病になってしまうリスクがあるのだ。そして、感染する病気はそれだけではない。
「喫煙者の母乳にはニコチンが含まれていて、それが赤ちゃんの口に入ると、最悪の場合、急性ニコチン中毒を起こすことがあります。また、通常、飲酒後60分以内の母乳にはアルコールが残っている。それも、赤ちゃんの口に入ってしまう。そして薬を服用している人の母乳にも危険があります。ほとんどの薬は母乳を通して赤ちゃんに移行するといわれているので、副作用が出ることが考えられるのです」(前出・森田医師)
そうした大きなリスクがあるにもかかわらず、新生児を持つママたちが、なぜ“誰のものかわからない母乳”に手を出そうとするのか。前出・鈴木さんは、「母乳にあってミルクにはない」ものがあるからだと言う。
「赤ちゃんには、妊娠中は母親の胎盤を通して、出産後は母乳を通して免疫がいくので免疫力がつきます。だから生まれてから6か月くらいまでは、母乳を飲ませていれば病気にかかりにくく、感染症を防いでくれる。さらに、赤ちゃんを抱っこして授乳するとコミュニケーションも取れます。また、おっぱいを吸うことで皮膚の常在菌の交代ができるなどのメリットが挙げられます」
※女性セブン2015年9月3日号