甲子園春夏7度制覇、通算96勝を誇るPL学園野球部が廃部の危機に瀕している。新チームとしてスタートを切った2年生はわずか12人。ノンフィクションライター・柳川悠二氏が、現在のPL学園野球部の様子をレポートする。
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以前から、PLでは度々、上級生による下級生へのいじめが問題となり、対外試合禁止処分を受けていた。その厳しすぎる上下関係はあまりに有名である。
野球部は専用の「研志寮」で暮らし、一つの部屋に3学年の選手数人が同居した。1年生は「部屋子」と呼ばれ、主に3年生の付き人となって、練習の手伝いや食事・洗濯など生活の世話をした。
先輩の前では「はい」と「いいえ」でしか受け答えすることが許されず、笑顔を見せることも御法度。打撃練習用のボールをひとつでも紛失すれば、1年生部員は真夜中であろうが探し回った。そして朝は3年生よりも早く起きなければならない。理不尽な「鉄の掟」がいくつも存在した。
1年生の誰かがミスをすれば連帯責任となり、“説教”が待っていた。清原和博がテレビ番組で、「暴力はPLの伝統」と語ったことがあるが、それに異論を唱えるOBはいないだろう。野球部OBはこういう。
「今の時代に、ふさわしくない伝統だとは思うが、あの1年生の1年間を乗り切れたからこそ、社会に出た時にどんな苦境にも耐えられる。毎日、3年生のお世話が終わり、ホッとすると、夜中なのに同級生と乾燥室でお菓子を食べたりしていました。疲れ切っていたけど、それが幸せの時間でね。“今日も生きてた”って。今の時代にはふさわしくない上下関係ですが、だからといって僕らの時代まで否定してほしくない」
今も野球部には鉄の掟が存在するのか。この夏に引退するまで主力だった3年生のA君はいう。
「ありません。先輩に『はい』『いいえ』でしか答えられないのは続いていますが、付き人制度は5年ほど前に撤廃され、先輩の前で笑っても許されていました」
研志寮は、数年前から使用されておらず、野球部員は一般生と同じ「金剛寮」で暮らす。
「部屋は同級生同士の4人部屋。食事は一般生と同じ食堂でとり、個人がお盆と箸を持っておかずを受け取り、ご飯をよそいます。洗濯は寮母さんがすべてやってくれます」
※週刊ポスト2015年9月11日号