年金受給者は皆、呆れ顔になったに違いない。8月24日の朝日新聞にこんな記事が掲載された。『ミス1万件超 発足後5年、未払い・過払いも』──。
記事によれば、年金機構の事務処理ミスは2010~2012年度は約2000件で推移したが、2013年度は4871件、2014年度は4142件と急増。ミスに起因する未払いや過払いなど年金額への影響は約89億円に及んだ。
特に問題なのが、一度受給した年金を国に返納しなければならない「過払い」だ。本誌が年金機構の資料を集計した結果、過払いは2013年度598件(約4億9000万円)、2014年度716件(約4億7000万円)など5年間合計で2162件、約18億2000万円に上った。1人あたりの返還請求平均額は約80万円だ。
中には請求が百万円単位になるケースもある。北海道のAさん(70代)は今年5月、自宅を訪ねてきた年金事務所の職員から「年金を払い過ぎたので返納してほしい」と告げられた。請求額は4年分で約140万円。原因は「加給年金」の処理ミスだった。
加給年金とは簡単にいえば「扶養手当」のようなもので、年金受給者に扶養対象である配偶者(65歳未満)や子供(18歳以下)がいる場合、対象者1人あたり年間22万4500円(3人目以降の子供は1人あたり7万4800円)が上乗せされる仕組みのことだ。
この加給年金は配偶者が65歳になると打ち切られるが、一定の基準を満たせば「振替加算」として、定められた額が配偶者の年金に上乗せされる。配偶者の厚生年金などの加入期間が20年未満であることが条件だが、Aさんの場合、妻に20年以上の加入期間があったにもかかわらず、事務処理ミスで加算されていた。
「余分に貰っていたのだから返還するのは仕方がない。でも月々の年金額を基本に生活設計していたので、いきなりそんな大金を出せといわれても……」(Aさん)
愛知県のBさん(80代)は年金事務所に問い合わせたところ過払いが判明した。
Bさんは私立高校で20年教員を務め退職したのち、私学共済を抜けて国民年金に加入した。私学共済と国民年金は重複加入できないためだ。しかし私学共済に加入していた教員時代に、なぜか国民年金に重複加入していたことになっていた。
「20年も長く国民年金に加入していたことになっていた。結果、本来もらえる額の倍近い国民年金を受給していたのです。その結果、過払い金が過去5年分で約350万円。急にそんな大金を用意できない。気づかなかった私も悪いのですが……」(Bさん)
※週刊ポスト2015年9月11日号