「老人ホーム」と「パチンコ」―一見なんの関連もなさそうだが、この2つの言葉が福祉・介護の現場で融合し、現場に活況をもたらしている。いま、老人ホームやデイサービス施設が福祉用のパチンコ台を購入・レンタルして設置するケースが増えているのだ。
施設の高齢者からはこんな声が聞こえてくる。
「もともと好きでよくパチンコ店に行っていたんですが、足を悪くしてからは通えなくなってしまいました。それ以降は外出するのも億劫で……ですが、デイサービスでパチンコができると聞いて、すぐ今の施設に通うようになりました。今では週3日通っています」(70代男性)
「入居している老人ホームでは、1か月ごとにパチンコ台を入れ替えてくれる。今度はどんな機種になるのか、入れ替えを心待ちにしています」(60代男性)
パチンコといえばジャラジャラという大きな音がつきもの。介護の現場にはそぐわないイメージがあるが、福祉用パチンコ台はその問題点を解消している。
“パチンコ発祥の地”とされる名古屋市のパチンコメーカー、豊丸産業が開発した福祉用パチンコ「トレパチ!」は、玉にコーティングを施して静音化。また、ハンドルは手首への負担が少なくなるよう工夫されており、高齢者にも遊びやすくなっている。足が不自由な人も車椅子に座ったまま遊ぶことが可能だ。
また、遊びながら体の運動機能を高める狙いの機種もある。中古パチンコ台のネット販売を手掛ける「グローバルスタンダード」(群馬県桐生市)が開発した最新機は、手でハンドルを回して玉を出す代わりに「足踏み」をすることで玉がでる仕組みを導入した。パチンコ台の足元にフットセンサーを取り付け、その上で1回足踏みをすると玉が1発出る、というものだ。足を悪くした利用者のリハビリなどに使用されている。
介護の現場に続々とパチンコを導入する背景として、「パチンコがもつ認知症予防効果」がある。諏訪東京理科大学教授の篠原菊紀氏は脳科学者の見地からこう指摘する。
「中高年を対象にスロットを遊戯中の脳内活動を測定したところ、空間認知に関わる頭頂葉と左側の前頭葉が活性化していることがわかりました。また、1か月のスロットを使ったトレーニングで認知機能が向上しました。パチンコにも同様の効果があると考えられます。パチンコは演出や音楽で視覚・聴覚を、手を動かすことで触覚を使うことができる。それらの刺激が脳に良いと考えられています」
楽しむことで健康を維持できる。福祉用パチンコの需要は急速に拡大しそうだ。
※週刊ポスト2015年9月11日号