中国で秋以降の重要な政策や人事を非公式に協議する北戴河会議で、江沢民・元国家主席ら長老指導者による習近平批判が噴出した。習近平は劣勢を挽回するため再び「反日」を使おうとしている。
9月3日の軍事パレード以降、中国全土にある日中戦争の戦跡などを「愛国拠点」に指定し、反日的な愛国主義キャンペーンを発動しようとしているのだ。その内幕についてジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。(敬称略)
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習近平は7月30日、党の最高幹部会議で、1931年の柳条湖事件以降の抗日戦争の歴史研究を進めて「歴史のねじ曲げや、侵略戦争を否定したり美化したりする誤った言論に対して事実によって反論していかなければならない」と主張した。
そのうえで、【1】今後も抗日の歴史を詳しく研究し、文書化すること【2】抗日拠点を史跡化すること【3】軍兵士の談話を集めてまとめて出版すること【4】文書や写真を集め直して、展示すること【5】その歴史館などを新たに建設し、愛国主義教育のために資料を提供、活用すること──が重要だと強調した。
習近平は7月7日の日中戦争開戦のきっかけとなった盧溝橋事件78周年記念日に、「抗日戦争の展示」が始まった中国人民抗日戦争記念館で「抗日戦争の精神は(中華)民族の精神だ。この展覧を通じてみんなが(愛国主義)教育を受ける」と宣言した。
この言葉を受けて、中国では今後は抗日戦争記念日である9月3日の軍事パレード以降、満州事変のきっかけとなった1931年9月18日の柳条湖事件記念日での大規模展示のほか、台湾の日本統治終了記念日である10月25日の台湾光復記念式典、12月13日の南京大虐殺記念日の諸行事などを行う。
さらに、これまでの200か所以上の愛国拠点に加えて、新たに20か所程度の抗日戦争関連の拠点を設置し、愛国主義教育キャンペーンを大々的に展開する方針だ。
すでに、そのようなキャンペーンは始まっている。筆者は7月初旬、北京を訪問した際、抗日戦争など戦勝70周年記念展示が行われていた北京の革命軍事博物館を訪れたが、そこには貴州省や山東省などから大型観光バス数十台を連ねてきた観光客が動員されていた。
先述した北京の抗日戦争記念館でも7月7日からの約1か月で参観者数が約26万人に達しており、地方からの動員がかかっていることをうかがわせる。
「中国では株価暴落など景気低迷、天津での化学物質の大爆発などで、習近平指導部内のきしみが目立ち、政権運営が不安定化しつつある。習近平は江沢民同様、『抗日』をキーワードとした愛国主義キャンペーンを発動することで、再び政権の浮揚を図るとの思惑が働いている」と同筋は指摘する。
※SAPIO2015年10月号