厚労省によれば、65才以上の世帯のうち所得のすべてを年金に頼っている世帯は5割を超える。だが、『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書)の著者でNPO法人「ほっとプラス」の代表理事・藤田孝典さんはこう指摘する。
「“私は年金をきちんと積み立てているから安心”というのは夢物語です。たとえば、20才から60才までの最長40年間国民年金に加入して、満額受給できたとしても、生活レベルは生活保護にも及ばないのです」
どういうことか。自営業者などで国民年金のみに加入するケースでは、40年間加入しても受け取れる年金は月額約6万円、夫婦で約12万円にすぎない(受給額から税金や社会保険料を除いた額。以下同)。これでは、夫婦の生活保護費の約18万円より6万円も少ない。しかも、未納期間があればさらに減額される。
厚生年金に加入するサラリーマン家庭も万全ではない。総務省「家計調査」(2014年)によれば、夫65才以上、妻60才以上の高齢夫婦無職世帯が衣食住などでひと月に支出する総額の平均は約24万円だ。
一方、年収400万円で40年働いたサラリーマンの年金額は月額約16万円、夫婦でも約22万円しかない。夫婦で月々トントンか赤字という生活を強いられるのだ。
実際、高齢夫婦無職世帯の可処分所得(すべての収入から税金や社会保険料を引いた額)の平均は月約18万円だ。月に約24万円の支出が必要なことから計算すると、毎月の赤字額は月6.2万円に達する。
しかも今後、国の財政難から、年金受給額は毎年1~2%ずつ減らされていく。ざっと計算すると、20年後には今の受給水準より22%カットされ、40年後には45%カットになる。さらにいえば、2017年4月には消費税が8%から10%に引き上げられる予定だ。さらに出費は増え、家計の赤字も増える。
年金だけで生活できるのは、生涯平均年収が600万円ぐらいある高給サラリーマンのみだ。高齢世帯は老後の生活のためリタイア後も月6万円を稼ぐか、なけなしの貯金を取り崩すしかない。
高齢夫婦無職世帯の家計は年間約74万円の赤字だ。これを貯金で補うならば、65才から90才までの25年間で最低1850万円の貯金が必要となる。だが、仮に平均値である2460万円の蓄えがあったとしても不安だと専門家が指摘する。
「自宅に住み続けるためのリフォーム費用や車の買い換え、突発的な医療費、年金の減額などを考慮すると25年間でプラス1000万円は必要です。つまり、老後に安心して暮らすには2850万円の貯金が必要なのです」(「生活設計塾クルー」取締役、ファイナンシャルプランナーの深田晶恵さん)
基本的に、貯金は稼ぎのある現役時代にしかできないので、リタイア時がタイムリミット。老後に上積みは期待できない。
※女性セブン2015年9月17日号