一度は愛したものの、離婚する夫婦は日々登場する。しかし、また別の人を好きになり再婚する。再婚する際に考えなくてはいけないのは子どもや元連れ合いとの関係だが、妻が元夫に多額のお金を貸していた場合、夫は元夫に一括返済を求めることはできるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
再婚した専業主婦の妻が元夫に100万円を貸していたことがわかりました。そのお金は夫婦の共同財産だと思いますし、なにより私に断わりもなく貸したことに憤りを感じています。元夫の署名と捺印の入った毎月5万円を返済するという借用書はあるのですが、一括返済を求めても問題ないですか。
【回答】
腹立ちはもっともです。しかし、例えば元夫が奥さんとヨリを戻し、その不貞関係維持を約束して奥さんから金を借りたのであれば、公序良俗違反で無効になり、奥さんは直ちに返せといえますが、それ以外は、分割約束は守るしかありません。加えて貸主ではないあなたには、以下の問題があります。
まず「夫婦の共同財産」との点ですが、夫婦間の財産関係は、各自の名義で取得したものや結婚前からの財産や婚姻生活とは無関係に取得したもの(特有財産)以外は共有と推定されます。
月給は、その人の名義でもらう特有財産ですが、そこから出した生活費の余ったお金は夫婦の共同生活の予備資金になり、夫婦共同財産です。奥さんのへそくりも二人の共有です。
ただし、共有といっても、円満な夫婦間では自分の分をわけろとはならないし、離婚すれば共同財産はもちろん、特有財産であっても夫婦の協力によって形成された財産は名義のいかんに拘わらず、財産分与の対象になり清算されます(どこにお金があるか知らないと財産分与は事実上困難になりますから、離婚が心配ならチェックは大切です)。
ところで、夫婦共同財産についての夫の権利は通常の場合半分ですから、あなたが100万円全部返せというのは無理です。しかも、本件のように対第三者の関係では名義人単独の権利と理解されるので、あなたは元夫に対する貸金の当事者とはいえず、直接の権利主張ができません。
とはいえ、奥さんは共同財産を本来の目的に反して貸したのですから、その管理権を濫用したといえます。そこで私は、元夫が夫婦のお金を奥さんが夫に無断で貸すことを知っていた場合、貸付の効力を否定し、夫が共同財産の保存行為として返還請求をできてもよいのではないかと思いますが、裁判例などはありません。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2015年9月11日号