中国語では、株券のことを「股票」(グービャオ)と呼ぶ。1億人以上とも言われる、株取引する個人投資家は「股民」(グーミン)と称される。そんな彼らが集まるのは、街角にある証券会社だ。覗いてみると、異様な光景が繰り広げられていた。
ドンドンドン!
「いったい、何が起きているんだ!!」
8月初旬。上海市内の証券会社の大きな株価ボードが置かれているコーナーで、60代と思しき男性が自分のノートパソコンを繰り返し叩きながら怒号をあげた。
「大損だ! もう俺は終わりだよ!!」
バタンと力任せにノートパソコンを閉じて、立ち上がる。出口に向かう途中、ドカンと椅子を蹴った。警備員が近づくと、男性は足早に去って行った。
次の日、ほぼ同じ場所に“怒号”が座っていた。休憩のためか、外に出たところを見計らって話を聞いた。男性は、目に涙を浮かべながらこうまくし立てた。
「(不動産関連会社の)上海大名城という会社の株を買っていたんだ。6月から急激に下落し始めて、6月末に『重大発表があるから取引停止』という発表があった。それが、別の会社を買収するという話で、1か月以上経ってようやく取引再開されたんだ。と思ったら、2日連続で値幅制限(ストップ安のこと)になって、3日目の今日も大暴落だ。もう、6月の半分くらいの株価だよ!」
いくら損したのかを聞くと、急に言葉が少なくなった。
「言いたくない。まあ、メルセデスが何台か買えるかな……ただ、親戚から借りていたカネなんだ」
文◆西谷格(在中国ジャーナリスト)
※SAPIO2015年10月号