【マンガ紹介】『ブルー・サムシング』谷川史子/集英社/453円
ビタースイートという言葉がしっくりとくるマンガたち。ほろ苦い恋物語の魅力を、私は谷川史子の作品から教わった気がします。
「りぼん」増刊などで活躍していた80年代末から、かわいくておしゃれな絵柄とキラキラした青春ストーリーは憧れの的でした。その一方で、今思えば当時すでにハッピーエンドとは少し違うビタースイートマンガの片鱗がありました。デビュー作『ちはやぶるおくのほそみち』は、実の兄が好きな女の子の話。恋心を消そうとしていた彼女が自分の想いをほのかに肯定するまでを描いていて、結ばれない恋へのあたたかい視線が今の作風にも通じます。
最新刊『ブルー・サムシング』は、1年に1作というゆっくりしたペースで描かれてきた短編を収録した本です。長編の場合でも短編連作的な形式をとることが多い谷川は、少女マンガ界が誇る短編の名手。すぐに読み終わってしまう短編だからこその、淡くブルーな読後感がたまりません。
元・夫からの再婚の知らせに対する複雑な心情を描く「ブルー・サムシング」。姉の夫を好きになってしまった女性が主人公の「おかえりなさい。」。設定はヘビーでも語り口はおだやか。そして、行き場のない感情がただそこにあると認めてあることになんとほっとすることか。季節の描写も美しく、実らない想いもひっくるめての世界へのラブコールのような作品ばかりです。
余談ですが谷川史子のコミックス巻末にはいつも「告白物語」というエッセイが収録されていて、それを読むのがひそかな楽しみです。しっとり大人の味わいの〆は笑いで!
(文/横井周子)
※女性セブン2015年9月17日号