近い将来大きな問題となるといわれているのが、「下流老人」だ。生活保護を受けなくてはいけないレベルの高齢者が増加するという。そんな「下流老人」の生活を更に圧迫するのが、介護費用だ。医療・介護ジャーナリストの鬼塚眞子さんはこう言う。
「公的な介護保険制度を使うと介護費用は自己負担が1~2割と低く抑えられます。とはいえ、デイサービスを週に2~3回利用する介護で月に2万~3万円、寝たきりになり、排泄の世話などをする身体介護まで必要になれば、月に10万円を超える出費も覚悟しなければなりません」
しかも、介護を始めるには、自宅の改修や介護用品の購入が必要となる。生命保険文化センターの調査では、介護保険適用外の初期費用は平均262万円に達する。
「介護離職」も大きな問題だ。大手企業に勤めていた寺田美津子さん(63才、仮名)は両親の介護のため40代で退社を余儀なくされた。収入は両親の年金10万円のみとなり、800万円あった貯金は10年ほどで底をついた。
離職から9年で父、20年で母が他界したが介護に専念していて結婚できなかった。両親の死後、60代の美津子さんはその先の人生を自身のわずかな年金で暮らさざるを得ず、ついに生活保護を申請した。
まず賃貸住宅に住む人は、高齢になって所得が減ってから家賃の低い物件に引っ越そうとしても、「高齢者お断り」という家は意外と多い。『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書)の著者で、NPO法人「ほっとプラス」代表理事の藤田孝典さんが説明する。
「保証人がいなかったり、孤独死されることを恐れて、大家は高齢者の入居を敬遠しがちです。結局、住まいがなくなって、路頭に迷ってしまうケースも多い」(藤田さん)
持ち家派でも安心できない。リタイア時に住宅ローンが残っていると退職金が一気に減ることになる。当然、貯蓄を食いつぶし、下流が近づいてしまう。
8月30日、『NHKスペシャル 老人漂流社会「親子共倒れを防げ」』(NHK)が放送された。その中で指摘されたのが、リストラなどで無職や低収入となり、年金を頼りに高齢の親と同居する若年・中高年(パラサイト・ニート)が増えている実態だ。
何も子供が怠惰なだけではない。前出のように、親の介護のために離職や転職する人も後を絶たず、その数は年間10万人に上るといわれている。
また、遅くに生まれた子供だと定年後に大学進学の費用など多大な教育費がかかることもある。さらに家族関係の変化が大きなリスクを招いている。
「これまでの高齢者は自身の収入では生活できなくとも、子供の仕送りなど親族の援助によって何とか生活できるケースも多かった。しかし、家族関係が希薄化し、子供や親族を頼れずに下流に追いやられる高齢者も増えています」(藤田さん)
※女性セブン2015年9月17日号