火葬した後、墓に納骨せず遺骨を「置き去り」にする事例が増加している。神社や寺院の境内、駐車場、電車内などに遺骨が放置され、警察に落とし物として処理される件数がここ数年で増加傾向にある。
置き去りにされる遺骨の多くに共通するのは、道端などに捨てるのではなく「忘れ物」を装って、電車の網棚の上や神社などの施設内に放置されているという点だ。
遺骨をしかるべき保管場所以外に放置すると刑法190条の「死体遺棄」にあたり、3年以下の懲役に処される。罪に問われたくないという思いや、「捨てるのは忍びない」という意識が手伝い「忘れ物」という形で放置される例が増加している。
千葉、埼玉両県警の管轄内で「遺失物」として処理された遺骨は2013年1月から2015年8月までで21件。年々増えつつある状況にあるなか、千葉県警は4年前、埼玉県警は3年前から落とし物の項目に新たに「遺骨」の分類を作った。
いくら名目上“忘れ物”だとしたところで、事実上は捨てられたことに変わりない。しかし捨てた背景を顧みると、やむにやまれぬ状況が垣間見えてくる。
2010年11月、ある男性が2008年に両親の遺骨を遺棄したとして逮捕された。逮捕まで2年もかかったのは、男性が貧困の末に住む家すら失っていたからだった。
男性の両親は東京都内に住んでいた。母親が死亡すると、その遺骨は父親が管理した。ところが父親も数年後に死亡、最終的に両親の遺骨を引き取ったのが逮捕された一人息子だった。男性は仕事の都合でかつて住んでいた宮城県仙台市まで車を飛ばし、市内の駐車場に車ごと遺骨を放置。その後職を失い、親類を頼ることもできず、家を売り払い、ホームレスとして路上生活を送っていた矢先に逮捕された。男性は、「金がなく、どうしようもなくて捨てた」と供述したという。
2007年には神奈川県藤沢市で、寺の境内に夫の遺骨を遺棄した疑いで73歳の女性が逮捕されている。この女性は、「これ以上は保管が困難」という理由とともに「子供に迷惑をかけたくなかった」と漏らした。遺骨は白い布にくるまれ、ポリ袋に入れられた状態で境内に置かれていた。遺骨の中には火葬許可証の切れ端があり、記載された受理番号から女性だと特定された。
「墓を見つけて納骨する金銭的余裕がなかった。自分の先行きも長くないと思った」
逮捕後、女性はこう供述している。夫は2004年に病死しており、しばらくは遺骨を自宅で保管していたが、結果として寺に放置した。遺骨が置かれた直後、せめてもの誠意なのか、それとも遺骨を弔えなかった罪悪感からか、寺に「供養してください」という手紙とともに現金2000円を送ったという。
※週刊ポスト2015年9月18日号