山口組の分裂が明らかになったが、北野武監督の傑作ヤクザ映画『アウトレイジ ビヨンド』では、肥大化した暴力団を壊滅させるため、小日向文世演じるマル暴刑事が、ヤクザ同士を焚き付けて抗争に導く。実はこれは、現実の警察の常套手段である。
「過去の暴力団がらみで、今回ほど警察の暴対(暴力団対策課)からの情報だけで記事がつくられたのは記憶にない」(在阪記者)
そのため、新聞各紙は異様なほど横並び報道となっている。たとえば、分裂が明らかになった翌日(8月28日付)の各紙はこうだ。
〈警察当局は、双方が衝突する恐れがないか動向を注視している〉(朝日新聞)
〈警察当局は山口組が分裂すれば双方が衝突しかねないとみて動向を注視している〉(日経新聞)
〈捜査関係者は「分裂により全国規模の抗争が起きる危険性がある」と危惧している」〉(毎日新聞)
まるで判を押したように、「衝突を危惧する」警察の見方が書かれている。いったい背景に何があるのか。暴力団と警察の関係に詳しいジャーナリスト・伊藤博敏氏が指摘する。
「警察当局には、危機感を煽って双方を追い詰めようとしている側面がある。警察は、暴対法から暴排条例に至る流れ、さらに最近では弘道会の収入源である飲食や風俗などの企業グループを摘発し、ついには若頭まで恐喝で逮捕起訴したことが、玉突きのように山健組などの分裂に繋がったと見ている。
だから、この機を逃すつもりはない。抗争すれば、徹底的に取り締まるし、抗争しなくても双方の動きを牽制し、すくみ合いさせることで兵糧攻めにするつもりです」
折しも8月31日に着任会見をした兵庫県警の久米一郎・刑事部長は、「不法行為があれば迅速に検挙し、暴力団壊滅につなげたい」と公言している。また現在、大阪府警刑事部長を務める南野伸一氏は、「4課(暴力団対策係)の南野を知らないヤクザはモグリ」とまでいわれたマル暴のスペシャリスト。府警関係者の鼻息も荒い。
「府警では直参の首をとって(逮捕して)ナンボですから、不穏な動きさえあれば早い段階で引っ張りたい。当然、山一抗争も参考にしている。山一抗争で、警察が劣勢にあった一和会に肩入れし、両派による消耗戦を狙ったことは警察内では知られた話です」
抗争が山場を迎えた1985年にまとめられた兵庫県警察本部「暴力白書」に、こんな記述があるという。
「山口組解体作戦は(中略)山口組の内部分裂、離反を促進して解体し、最終的には壊滅に追い込むことを目的として策定したものである。(中略)山口組を分裂に追込むという最大の成果をあげ本作戦の所期の目的をほぼ達成した」(溝口敦著『撃滅 山口組vs一和会』より)
警察が狙うのは、このときの再現だ。
※週刊ポスト2015年9月18日号