今年4月23日、中国文化部が発表したある声明が話題を呼んだ。
「今後は葬儀の場面で“社会道徳を乱す儀式”を許可しない」
ここでいう“社会道徳を乱す儀式”とは、中国語で「脱衣舞」、つまりストリップのこと。中国では地方の農村を中心に「葬式ストリップ」が大流行しているのだ。
声明のきっかけになったのは、今年2月に河北省と江蘇省で摘発された葬式ストリップ事件だった。
河北省で葬式ストリップを行ったのは「赤いバラ歌舞団」と称する一座。6人の演者が音楽や漫才、ダンスなどを披露した後、若い女性のセクシーダンスが始まった。ダンサーが一枚ずつ服を脱ぎ、やがて全裸になると盛り上がりは最高潮に。幼い子供を含む大勢の“参列者”からは、死者を送る葬儀の場とは思えない口笛や拍手が起こり、喝采のなか、2時間半に及ぶ公演は幕を閉じた。
『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)の著書がある愛知大学教授の樋泉克夫氏が語る。
「古来、中国の葬式は一種の祭りのようなものでした。できる限り派手にするのが死者への供養であり、そのように死者をあの世に送ることで、子孫まで豊かになれるという“信仰”は今でも根強い。
共産党政権は成立以降、『贅沢な葬式は無駄だ』として簡素化を訴えてきましたが、ついに中国の伝統的な価値観は変わらなかった。近年の経済発展により金持ちが増えたことで、中国の葬式は“先祖返り”したといえます」
特に地方の金持ちほど費用や日数をかけ、豪華に祭壇を飾り立てて葬儀を行うことが多いという。樋泉氏が続ける。
「数年前、湖南省の田舎で目にした葬式には驚きました。2車線の道路の一方を塞いでやぐらを組み、そこに棺を置いて、一晩中大音量の音楽を流しているのに、誰も文句を言わない(笑)」
そうした「派手な葬式」がエスカレートして、葬式ストリップが登場したと樋泉氏は見る。
「葬式ストリップのルーツは、清朝末期の『敬死』と考えられます。当時、大金持ちの役人や商人が葬式に芝居の一座を招いて演じさせ、ドンチャン騒ぎすることを『敬死』と呼んでいました。清朝当局が『敬死は死者に対する冒涜であり浪費だ』として何度も自粛令を出していたことから、実際はかなり流行していたと見られます」(樋泉氏)
※SAPIO2015年10月号