かつては大勢の会葬者が訪れる葬儀が一般的だったが、近年は「家族葬」「直葬」と呼ばれる低価格・小規模な葬儀が全国的に広がっている。そうした「格安葬儀」の満足度はどうなのか。ライターの池田道大氏が、格安葬儀経験者の声をレポートする。
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北海道在住のA子さん(65)は老後資金として、節約を重ねてようやく約1000万円を貯めた。ところが両親と身寄りのない叔父が立て続けに亡くなると、3人分の葬儀と墓の費用で貯金はあっという間に底を突いた。
将来の不安を隠せないA子さんが打ち明ける。
「収入は年金のみで貯金がなくなりお先真っ暗です。故人の弔いは大事だけど、先の生活も考えるべきだった。何より心配は子供や孫に迷惑をかけること。子供には“私が死んだらお金のかからない葬儀にして”とお願いしています」
いま、A子さんのように小規模な「格安葬儀」を求める人が増えている。代表的なのは、家族や親族のみで通夜、告別式を行う「家族葬」と通夜、告別式を省いて火葬のみを行う「直葬」だ。
経産省の調べでは全国平均の葬儀費用は約123万円だが、「価格.Com」によると家族葬は約35万円~(15~50名程度)、直葬は約12万円~(1~5名程度参加)と低価格化は明らかだ。直葬で5万円台と破格プランを打ち出している業者も少なくない。
東海地方在住のB子さん(44)は夫を肺がんで亡くした。医療費がかさんで家計は苦しく、夫は生前から中学生と小学生の子供のために「死んだら金のかからない直葬にしてくれ」と希望していた。
B子さんは躊躇したが、今後の生活を考えて約5万円の直葬を選んだ。近親者5人の極めて質素な葬儀だったがこの形式にして良かったと語る。
「親しい人だけが集い、“シンプルだけどかえってアットホームだった”と言ってもらえた。正直、費用の面でも救いになり、夫も喜んでいると思います」(B子さん)
都内在住のCさん(65)も簡素さを魅力に挙げる。
「先に亡くなった父の葬儀では悲しみのなか、細かな点まで葬儀社と打ち合わせたり、参列者への挨拶などで精神的にキツかった。本音では、義理で参列する人に気を回すより、父を偲んでただ泣きたかった。その思いから母の葬儀は身内だけの家族葬で行い、別れに集中できました」(Cさん)
実際、こうした遺族感情が、小規模な葬式が広がる背景にあると葬儀ジャーナリストの碑文谷創氏が解説する。
「高度成長期に日本の葬儀は規模が拡大し、故人を直接知らない会葬者が多く参列する“社会儀礼”と化した。しかし、悲しみの最中にある遺族には大きな負担でした。その反動から近親者だけの小規模葬儀が求められるようになったと言えます」
※SAPIO2015年10月号