老後破産は長寿社会の深刻な社会問題となりつつある。8月30日放送のNHKスペシャル『老人漂流社会 親子共倒れを防げ』は2世代に渡って生活に窮する厳しい現実をレポートして反響を呼んだ。
親子が共倒れして老後破産に至った場合、一家離散するしか助かる道はない。『Nスペ』でも、自立支援制度による「世帯分離」で、親子がバラバラになるケースが紹介されていた。
高血圧の持病がある83歳の父親と、仕事がなく自立できない56歳の息子。収入は父親の年金9万円だけで、食べるのも困難な状態だ。息子としては父親の体も心配なので、できれば一緒に暮らしていたかったが、このままでは親子共々死ぬしかないと、「世帯分離」を受け入れることを決断。父親は高齢者施設に移って生活保護を受け、息子は就労支援を受けながら自立の道を探ることになった。
「世帯分離をせずに、同居しながら生活保護を一部受けられるように工夫するケースワーカーもいます。しかし、失業率が高くなり、各自治体は生活保護費で財政がパンクしかねない状況。それゆえ子供が40代なら“働けるはず”とみなされてしまい、生活保護が受けられないケースも少なくありません。
『世帯分離』というのはまさに苦肉の策で、本来なら、親子同居で不足分として生活保護費を支給するほうが、公的なコストがかからないと思うのですが……」(社会学者で放送大学副学長の宮本みち子氏)
さらに、高齢者世代には「人に迷惑をかけたくない」「恥ずかしい」という思いから、生活保護を受けることへの抵抗感が根強い。
「生活保護世帯になると、同居している息子も『生活保護者』になってしまうという理由で受給を諦め、年金を切り詰めて生活することを選んだ父親もいます。生活はかなり困窮していたようですが、プライドが許さなかったのでしょう」(NPO法人・金沢あすなろ会事務局長・三井美千子氏)
※週刊ポスト2015年9月18日号