老後破産は長寿社会の深刻な社会問題となりつつある。8月30日に放送されたNHKスペシャル『老人漂流社会 親子共倒れを防げ』は2世代に渡って生活に窮する厳しい現実をレポートして反響を呼んだ。
老人問題に詳しく、『老人たちの裏社会』(宝島社刊)の著書もあるノンフィクション作家の新郷由起氏は、こうした2世代にわたる困窮生活の驚くような事例を紹介する。
「32歳の娘と64歳の母親がともにデリヘルで働いているケースがあります。娘は離婚し、男の家を転々としたあげく、実家に戻ってきた。当時、母親はドラッグストアでパートをしていましたが、足を痛めて働けなくなってしまった。
今、女性が60歳を過ぎて雇ってもらえる仕事は、清掃業務か性風俗だけといっても過言ではない。でも、清掃業務は長時間労働で肉体的にもきつい。娘も最初はキャバクラで働いていましたが、32歳という年齢もあって十分に稼ぐことができない。結局、親子一緒にデリヘルで働くことにしたんです」
新郷氏がこの母親に「体を売ることに抵抗はないか」と聞くと、「この年になったら別に……。とりあえず、生きていければいい」という言葉が返ってきた。『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書)の著者でNPO法人ほっとプラス代表理事の藤田孝典氏は、こうした老後破産は誰にでも起こり得ると警鐘を鳴らす。
「現役時代に年収400万円あった人でも、年金受給額は月20万円を下回ります。それ以下の年収であれば、生活保護基準を下回るケースも当然出てきます。もしそんな状況に追い込まれたら、地域包括支援センターや役所の福祉課などに相談してほしい」
※週刊ポスト2015年9月18日号