今シーズン、右肘靭帯断裂の大怪我から2シーズンぶりに復帰した東京ヤクルトスワローズの館山昌平(34)。復帰してからも「怪我を厭わない」という館山の信念は揺らいでいない。これまでに3回のトミー・ジョン手術を受けたが、怪我のリスクに対しては一切の躊躇がなく、全力で腕を振り続ける姿勢を続けている。
館山の信念は、登板日当日の調整法に表われている。徹底的にアップし、最後は陸上用のスパイクを履いて全速力でダッシュする。試合前に、そこまで肉体を追い込んでマウンドに向かうプロの投手は他にいない。
「『今日はこれくらいでいい』という準備はしません。全速力で走っていれば、いつか肉離れするかもしれない。でも、中途半端な準備では、マウンドに上っても試合を壊してしまうはずです。
いきなり初回に大量失点したら、ただの黒星では済みません。ならば初めからマウンドに上がらない方がいい。チームに迷惑をかけることはできませんからね。常に万全の準備で試合に臨む──僕にとって、プロのマウンドはそのくらいの準備をしないと戦えない場所なんです」
できるだけ怪我をしないという野球人生ではなく、怪我をしてもいいから、少しでも抑える確率が高い道を選ぶ。それが館山の生き方だ。
「子供の頃から野球が上手いタイプではなかった。センスはないし、不器用でした。小学5年生の時はライパチ、8番ライトでした。小6で7番キャッチャー。中学に入ってクリーンアップを打つようになったけれど、ピッチャーとしては3番手でした。しかも引っ越した子がいて4番手から繰り上がった3番手。そんな野球少年だった僕にとって、プロ野球は夢の世界。だから『ああ、これをやっておけばよかった』と後悔して辞めたくはないんです」
傷だらけのエースは、覚悟を決め再びマウンドに向かう──。
取材・文■田中周治 撮影■藤岡雅樹
※週刊ポスト2015年9月18日号