神奈川県川崎市の介護付き有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で昨年11~12月にかけて、87歳男性、86歳女性、96歳女性が相次いで転落死した事件は、川崎市も指摘するように「不自然」すぎる。施設の向かいに住む男性に話を聞くと、「(86歳の)女性が転落した夜、男女の口論を聞いた。その後ドスッという音がした」という。
この施設では今年5月に20代の男性職員が女性入居者の現金数万円を盗んだ疑いで逮捕され、懲戒解雇されていた。職員は転落事故が起こったいずれの日も当直に入っていたが、本人は転落死への関与を否定。本誌の直撃取材に対しても、「一切お話しできません」というばかりだった。
「Sアミーユ川崎幸町」で起きていた問題はこれだけではない。
「今年5月には、入居者の家族からの通報により聞き取り調査を行なった結果、4人の男性職員が虐待に関与していたことが判明。『死ね』などの暴言を吐くほか、頭をゲンコツで殴るという暴力もあったようです」(施設を管轄する川崎市高齢者事業推進課の関川真一課長)
前出の男性職員が入居者への窃盗を繰り返したのも、職員なら誰でもマスターキーで入居者の部屋に出入りできる状況にあったからだ。管理体制がずさんだったというほかない。
さらに今回の事件では、川崎市の対応にも疑問が残る。市側は、「1件目と2件目の転落事故の報告後、いずれも施設長に口頭で再発防止の指導をした」(前出・関川課長)と説明するが、市も「不自然」と認める事故を前にして口頭注意だけで済ませていたのは明らかにおかしい。かつて介護施設を運営していたノンフィクションライターの中村淳彦氏がいう。
「施設は地域の評判を気にして不祥事を隠そうとするし、自治体側もおざなりな対応しかしないケースが多く、介護施設はブラックボックスになりやすい。さらに家族が無関心なことも多いので、まさに“姥捨山”と化す施設が増えています」
※週刊ポスト2015年9月25日・10月2日号