安保法案を衆院強行採決した7月以降、全国に広がったデモは次第に参加者を増し、さる8月30日の国会前デモは数万人に膨れあがった。主催者は「約12万人」、警視庁は「約3万3000人」と発表し、海外メディアも英国BBC、米国CNNはトップニュースで大きく報じた。
ところが、日本の公共放送であるNHKはほとんど報じなかったのである。
デモ当日夜のNHK『ニュース7』のヘッドラインを見ると、トップニュースがバンコク爆弾テロ事件(5分間)、次が「スズキVW(フォルクスワーゲン)資本提携解消へ」という経済ニュース(5分間)。国会デモについては3番目の安保法案関連の5分半のニュースのなかで、
〈きょうは国会周辺だけでなく、全国各地で安保関連法案に反対する集会やデモが行なわれました。このうち、名古屋市では、母親の呼び掛けで名古屋駅前でデモ行進が行なわれ、参加者は「子供を守れ」などと声を上げていました〉
と2分ほどの映像とともに報じただけだった。NHK政治部記者はこう反論する。
「基本は1ニュース1分半なので、30日の国会デモは相当の尺(時間)を取った。デモについてはニュースにしないと安保反対派からの抗議が来るため、きっちりやろうという方針だ」
NHKが2分間報じたのには事情があった。実は、8月1日と25日、NHKの報道が政権側に偏っているとして、約1000人が東京・渋谷のNHK放送センターに「デモを報じないNHKを包囲するデモ」を行なっていたからだ。メディア法が専門の服部孝章・立教大学名誉教授が指摘する。
「国会で安保法案の審議が始まったこの春以降のNHKの報道ぶりは疑問を感じた。とくに審議が本格化した7~8月は猛暑のニュースをトップで長く報じ、安保法案はおざなりに流す程度。重要な安保法案の審議に国民の関心を向けたくないという編成になっていた」
そして国会数万人デモの“2分間ニュース”はアリバイ報道だと見ている。
「8月30日の国会デモを報じたといっても、与党は参院で強行採決する流れが決まってしまった。NHKは特定秘密保護法のときも国会審議中は反対デモをほとんどニュースで取り上げず、採決直前になってようやく日比谷野外音楽堂の大規模集会を報じた。事実上、成立の流れが決まって反対運動を報じるアリバイづくりのような報道の仕方は今回も同じです」(同前)
「しっかり報道しろ」と抗議デモを受けて、ようやく国民の安保反対デモをニュースで取り上げる報道機関などその名に値しない。
※週刊ポスト2015年9月25日・10月2日号