高齢社会・高齢者の日々の生活をテーマに毎年募集している「シルバー川柳」の入選作が9月7日に発表された。悲哀と、それを笑いに変える機知に富んだ作品が多いが、「シルバー川柳」を主宰する、全国有料老人ホーム協会の担当者の話。
「今年の応募総数は1万1899作品あり、65歳以上の応募が前年比5.7%増加しています。新制度が始まる『マイナンバー』やブームになった『脳トレ』、ドラマやバラエティ番組で見聞きした『壁ドン』など、メディアに多く登場したキーワードが積極的に使われています」
最新のキーワードを使った入選作をいくつか紹介しよう。
●壁ドンで ズボンの履き換えやっとでき(69歳男性)
この句を詠んだ福井県の伊藤敏晴さんは、長年腰の痛みに悩まされてきた。
「年齢のせいもあって、片足だけで立ってバランスを取ることが難しいんです。いつも片手を壁についてズボンを脱いだりはいたりしていたのですが、『壁ドン』という言葉を知って『なんだ、私が毎日やっているようなことか』と思いつきました」
さすがに妻に向かっての「壁ドン」経験はない。
「そんなことしたら『びっくりして血圧が上がったじゃない』って怒られますよ(笑い)」(同前)
シニア世代はニュースに敏感だが、聞き慣れない言葉に関してはときに鈍感になる。次の句は新しい言葉に対するストレートな反応を表わしている。
●マイナンバー ナンマイダーと聴き違え(67歳男性)
この句の作者・沢登清一郎さんは、今も現役で住宅リフォームの仕事を手掛ける。
「マイナンバーに対する不信感もあれば、まだまだお迎えが早いとも思っている。お経のように聞こえるあの言葉は二重の意味で嫌ですね(笑い)」
流行の物を実際に試してみたが、思わぬ結果に落胆する姿も。
●脳トレで 信じたくない老いを知り(67歳女性)
これなら自分にもできる……孫とゲームに興じ、意気揚々と「脳トレ」をやってみたものの、実年齢以上の結果にどんよりする姿が目に浮かぶ。衰えを実感した句をもう一つ。
●ハイタッチ 腕が上がらず老タッチ(48歳男性)
身体が衰えた人にだって武器はある。知識や経験だ。
●老人会 みんな名医に早変り(82歳男性)
病院通いの経験から、ちょっと症状をいえば「あーそれは○○だ」という診断が、周囲の“名医”たちから即座に下される。
ただ、その老人会にも出席せず、欠礼しているとこうなることも。
●年賀状 出さずにいたら死亡説(47歳女性)
メールもSNSもしないシニアにとって、年賀状は唯一の生存確認手段かもしれない。
※週刊ポスト2015年9月25日・10月2日号