巨大市場を持つ中国はこれまで経済成長を続けてきた。しかし、8月の株価暴落でその先行きに不安が持たれている。はたして中国と我々はどう付き合って行けばいいのか。大前研一氏が先行き不透明な中国経済について解説する。
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上海株暴落に端を発した世界同時株安は、中国の景気減速が世界恐慌のトリガーを引いたように見える。中国の楼継偉財政相は先のG20財務相・中央銀行総裁会議で「今後5年間は構造転換の陣痛期になる。苦難の調整過程になるだろう」との見通しを示したが、この先どうなるのか、実は誰も予測できていない。
日経平均株価は8月24日に前週末比895円安の1万8540円と暴落し、翌25日も下げ止まらず、前日比733円安となって1万7000円台に突入した。本稿執筆時点では1万7500円前後で推移しているが、先行きは極めて不透明だ。習近平政権が経済政策に対する自信を完全に失い、景気対策を腰だめで撃っている感が強いため、いまや中国は世界経済にとって最大リスクとなっている。
中国の企業業績が低迷している原因は、人件費の高騰と人民元の上昇だ。中国政府の通達により、企業は毎年15%の賃上げを強いられてきた。つまり中国は人民の不満を解消する手段として、人件費を市場に委ねず強制的・人為的に上げてきたのである。
さらに近年は、従業員を削減しようとしても、一人一人が弁護士を連れてくるので簡単にはリストラできない。その結果、中国に進出した外国企業は全くペイしなくなった。日本企業の場合は、むしろ日本国内の地方で雇用したほうが、職種によっては安くて優秀な人材を確保できるようにさえなっている。
しかも、人民元の為替レートが4~5年前は1元=12円ぐらいだったのに、今は1元=19円ぐらいになり、中国で事業を継続する意味がなくなっている。このため外国企業の多くは早く撤退したいと思っているが、そうはさせじと中国政府が撤退コストを非常に高くしてペナルティも設けているので、みんな困り果てているというのが現状だ。
そして習近平政権は、景気減速から脱する方策として人民元の切り下げを選んだ。しかし、これは大きな間違いだ。人民元が競争力を失った最大の原因は為替そのものではなく、前述のように中国政府が人件費を強制的に上げ続けてきたことである。にもかかわらず、今度は為替を人為的にいじった。その結果、中国は答えのない世界、ソフトランディングする場所が見えない世界に入ってしまった。
※週刊ポスト2015年9月25日・10月2日号