【書評】『ヤング・アダルトU.S.A. ポップカルチャーが描く「アメリカの思春期」』
長谷川町蔵+山崎まどか著/DU BOOKS/2200円+税
【評者】山内マリコ(作家)
アメリカで流行ったものが日本に持ち込まれ、数年遅れで踏襲されていく。この流れはカルチャーだけでなく、政治や事件に至るまで見ることができる。例えばマイケル・ムーアが2004年に撮ったドキュメンタリー『華氏911』には、超格差社会に生きる貧困層の男子高校生が「軍隊に入れば学費が免除されて大学に行けるよ」とスカウトされるシーンが収められていた。
当時は「アメリカ怖い!」で済んだことも、今の日本ではなんだかシャレにならない感じ。このムーアが一躍名を上げたのがコロンバイン高校銃乱射事件を追った作品だった。
本書はハイスクールを舞台に10代の少年少女の日常生活を描く、“ティーンムービー”と呼ばれるジャンル映画を解析したものだ。10代が社会の影響をモロに受ける存在なのは、日本もアメリカも同様。ティーンを描くことは、すなわち社会を描くことなのだ。よってこの本は、ティーンムービーを入り口に、アメリカの全貌をあぶり出していくこととなる。
その対象は、音楽やドラマ、青少年向け小説など多岐に渡る中、アメリカの特権階級や進学事情にも触れている。名門校の学費の驚異的な高さは、“東大合格者の親の年収は高い”という日本の状況とダブる。晩婚化が進み、若者が大人になるタイミングを失っている点もそっくり。そして“若さ”こそがアメリカの病理であるという指摘には唸った。
国の文明の特質は、“外国人”によってもっとも的確に記録されるもの。この大著には、アメリカ人も知らないアメリカのすべてが記されている。そしてそれは取りも直さず、未来の日本をも予見しているのだ。
※女性セブン2015年10月1日号