就任1年目にして歴史的圧勝を決めた福岡ソフトバンクホークス(以下SB)の工藤公康監督を評価する声が高まっている。今年の好成績の要因の一つは、4番を任せると決めた内川聖一をシーズン通して動かさなかったことにより、打線に軸ができたからだともいわれている。そして、SBは打線だけでなく投手起用にも筋の通った起用法が徹底された。工藤監督と西武時代に同僚だった杉本正氏は、「投手に無理をさせなかった」と評価する。
「先発投手には一貫して長いイニングを投げることを目指させ、リリーフは使わないと決めるとブルペンでも投げさせなかった。SBで60試合以上登板しているのはクローザーのサファテだけで、セットアッパーの森唯斗や五十嵐亮太には過剰登板をさせていない。
今ある戦力で2年後、3年後にどんな戦い方をしていくかを計算しているからです。1年だけ、1試合だけの戦い方ではなかったのが、原(辰徳)監督とは対照的でしたね」
その場しのぎの起用ではないことは、二軍の投手事情を見ればよくわかる。
「最近は岩嵜翔、千賀滉大、東浜巨といった若手が活躍するようになりました。実は彼らは二軍でローテーションを決められて投げています。今後のローテーション投手として育てるというビジョンが見える使い方です」(杉本氏)
こうした方針がとれる背景には、SBが厚い選手層を持っているからという指摘もある。だがその点でいえば今年、圧倒的戦力を誇りつつもまったくパッとしない原辰徳監督率いる巨人も、選手層の厚さでは負けていない。にもかかわらず、巨人はローテーションが火の車になって最後まで尾を引いた。野球評論家の広澤克実氏の指摘は手厳しい。
「先発陣だけでなく抑えのマシソン、山口鉄也といった昨年までの頼りの綱がまったく機能しなかった。勤続疲労で衰えが出たということでしょう。しかしこれはコーチ、監督の責任です。監督の重要な仕事とは、選手の調子や状況を把握して戦力を整えることです」
そしてもちろん、モチベーションの維持も大事な仕事となる。その点も、やはり工藤監督のほうが長けていたかもしれない。実はベンチ裏では投手出身の監督らしく発破をかけていた。8月末、弱気な投球を見せたある若手投手に対し、「野球舐めてんじゃねえぞ!」と椅子を蹴り上げて怒鳴り散らしたという。チームスローガン通りの「熱男」がそこにいた。
※週刊ポスト2015年10月9日号