21世紀はインテリジェンス(諜報)を駆使した「武器なき戦争」の時代だといわれる。その流れは“暴力”を生業にするヤクザも例外ではない。山口組の分裂騒動は、インターネットを駆使した新時代の“抗争”に突入した。フリーライター・鈴木智彦氏がレポートする。
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分裂直後、山口組の実力派が拮抗する大阪でも、神戸山口組系の一団が敵対する直参組織前で示威行為をしていたことが確認されている。神戸側の先鋭部隊はそのまま東進し、数日後、甲信越組織で目撃された。さらにその後、名古屋に姿を見せたという噂が流れ、暴力団社会は騒然とした。
名古屋は司忍六代目の出身母体である弘道会の地元で、いわば敵の本丸に乗り込んだ形になる。噂が事実なら土足で母屋に侵入したに等しく、明確な挑発行為だ。山一抗争(※注)当時に同様のことをすれば、即座に事件になっただろう。いまでもこうしたゴタゴタが積もり積もれば事件が起きる。現在は双方ともに「こちらから攻撃は仕掛けない」と明言していても、最後は暴力のぶつかり合いになる。
【※注:1984年に竹中正久組長が四代目を襲名したことに反発した反竹中派が「一和会」を結成。竹中組長は一和会に殺害されたが、山口組の報復が激化。1989年の終結までに双方で25人もの死者を出した】
「東京は血の海になるでしょう」などとTwitterでつぶやいて急激にフォロワーを増やし(フォロワー2万人以上)、活発に発言している「組長」なる人物が、神戸側の人間と宣言していることは以前触れた。時事ネタと洒脱な会話でファンを増やしながら彼は頻繁に敵地である名古屋を訪問し、証拠となる写真も投稿している。
写真を偽造するのは簡単だが、9月16日には突然、携帯電話のGPS機能を使った位置情報をONにした。どこにいるかはっきり証拠を残したわけで、「名古屋なう」という刺激的な投稿もあった。
個人で匿名のSNSなら笑い話かもしれない。が、いまやヤクザも組織立ってネットを使う時代だ。山口組は非公式の建前ながら「麻薬追放国土浄化同盟」というサイトを運営しているし、組の行事をYouTubeにもアップしている。山口組本部の取材の際、最前列にカメラを持った組員を見かけることも多い。
ネットばかりか、「山口組新報」という機関紙も復刊させている。離脱派の拠点のすぐ近くまで出向き、写真を撮影し、こうした媒体に掲載すれば十分な挑発になる。神戸山口組も対抗して公式サイトや機関紙を制作する可能性はある。
ネットを駆使した新時代の情報戦が始まっていることは間違いない。
※週刊ポスト2015年10月9日号