福岡ソフトバンクホークス(以下SB)と読売巨人軍は、今年のプロ野球開幕前にはともに圧倒的戦力から優勝候補に挙げられる2球団だった。しかし、就任1年目の工藤公康監督率いるSBが歴史的圧勝でスピード優勝を決めたのに対し、名将と呼ばれてきた原辰徳監督の巨人は混戦に沈んでいる。この2監督の対照的なありようは、戦術面だけでなく、選手の「調子の見極め方」という面にも表われている。
工藤監督は、打撃投手に野手のバッティングの状態についてレポートを提出させ、調子がいい者を起用していた。またシーズン中も、ときには工藤監督自らが打撃投手を務めて選手の調子を確かめていたという。
「一方、原監督はまさに“思いついたから”としか思えないような采配が目立った。8月、10年ぶりの3連敗を食らって頭に来たのか、翌日の休養日も練習を指示した。
疲れがピークに達する時期ですから、ただでさえ選手からは不満の声が出ていたうえに、キャンプで不評だった150キロ超マシンを久々に引っ張り出してきて打撃練習を強行した。これにはさすがに内部からも“シーズン中にやる練習ではない”と陰口が漏れていた」(球団関係者)
野球評論家の金村義明氏は、「原監督は12球団でただ1人の“全権監督”だ」と語る。
「実績は申し分ないし、経験豊富な名監督ですからね。鳴かぬなら鳴かせてみよう……とばかりに、打順の入れ替えをする。それが昨年まではうまくハマり、代走や代打に適材適所の原采配で、リーグ3連覇を達成した。今季もそのつもりでやってきたものの、選手が笛吹けども踊らず、という状況じゃないですかね。
今年は原監督の契約最終年ということもあり、阿部慎之助を“鳴かせる”ためにファーストにコンバートまでしてみたが、結果的に正捕手がいないという事態を招いてしまった」
策がうまくハマらずに失点した時など、中継カメラでよく抜かれる原監督の苦虫をかみつぶしたような表情が浮かんでくる。一方の工藤監督は、この点でも真逆である。工藤監督と西武時代に同僚だった杉本正氏が語る。
「現役時代の経験が生きているのか、緊張感があるはずなのに、ベンチにいてもいつもニコニコしていて気持ちの上ですごく余裕があるように見えた。負けても焦らない。選手もベンチにいて暗くなることがなかったのではないでしょうかね。交流戦では巨人がSBの打線を怖がりすぎているように感じた。これには、工藤監督の余裕の表情が一役買っていたと思いますよ」
自分の感覚を信じ、動きすぎて策に溺れた原監督と、選手を信じ、何が起きても動かずにどっしりと構えていた工藤監督。その差は想像以上に大きい。
※週刊ポスト2015年10月9日号