中国の習近平指導部が11月末までの予定で、中国全土の原子力発電所すべての総点検を現在、進めていることが分かった。これは8月中旬の天津市の化学薬品大爆発の反省を踏まえたもので、天津では安全点検がまったくなされておらず、173人が死亡するという大惨事になった教訓から、原発の総点検に踏み切ったとみられる。ロイター通信が伝えた。
中国では現在、26基の原発が稼働中で、さらに25基が建設中。中国政府は2050年までに全部で400基以上、総電力量として4億kW分の原発を建設するという調査も出ている。
ある専門家は「中国では深刻な大気汚染の大きな原因とされる石炭利用の火力発電が問題視されている。大気汚染物質であるPM2.5(微小粒子状物質)の問題も深刻化されていることもあって、クリーン・リソースである原子力が重宝されているというわけだ」と語る。
しかし、その原子炉は中国が独自に開発した“メイド・イン・チャイナ”で、想定建設費はアメリカ製やフランス製のほぼ半額と経済的な点が大きな特徴で、専門家の間では、その安全性に疑問がもたれている。
この専門家は「実際、それらの原子炉は第3世代原子炉と喧伝されているが、旧式で安全性に劣る第2世代原発の焼き直しに限りなく近いというのが現実で、現在、中国で建設中の原発のうち、本当に安全性が高いとされる新型の軽水炉を採用しているのはたった3か所だけ」と指摘する。
中国の原発はほとんどが工業や商業が発達している沿海部に集中していることから、もし事故が起きれば、中国経済に壊滅的な被害を及ぼすことになる、また、偏西風や海流の向きから考えても、日本や台湾、朝鮮半島にも大きな影響を及ぼすのは不可避だ。
そのことをよく知っているのは中国政府関係者だけに、天津の大爆発が起こったこともあり、原発の安全性の総点検となったわけだ。しかし、「天津の例から見ても、水と結合すれば大爆発を起こすシアン化ナトリウム700トンが現場で野積みになっていたことから分かるように、中国では現場レベルの危機管理や安全意識は相当低いと考えられる。上が号令をかけて、原発の総点検をしたところで、下がまったく動かないということもあり得るわけで、中国の場合、事故が起きてからでないと、本当の意味での安全点検は実行されないだろう」と前出の専門家は悲観的だ。