業界紙、専門誌のめくるめく世界をあなたに──。今回は種や苗を扱う業界紙を紹介します。種業界、酸いも甘いも色々あるようだ。
『日本種苗新聞』
創刊:1949年
発行:毎月1日・11日・21日発行
部数:5000部
読者層:種苗会社、種苗店、農家、公的機関ほか
定価:年間7560円
購入方法:同社へ直接注文
「二代目」「有罪判決」「銃」「若女将」…。なんとも物騒な単語が並ぶが、これらはいずれも『日本種苗新聞』編集部で耳にした言葉だ。野菜の種の話を聞きに行って、“話の種”ばかり集めてきた? いやいや、まずは「二代目」から説明しよう。
そもそも日本原産の野菜は、わさび、三つ葉、せり、うど、みょうがなどごくわずか。
「大根、ねぎ、ごぼう、里いも、なす、しょうがなどは14世紀に世界各国から入ってきました。にんじん、ほうれん草、きゅうり、かぼちゃは15、16世紀に。キャベツ、レタス、たまねぎ、メロン、ピーマン、トマトは19世紀になってから。それらが日本各地に根づいて“在来種”になったのです」
同紙顧問の五味政弘さん(76才)は語る。種苗業界に大きな変化が訪れたのは昭和40年代。急速な人口増加と経済成長の中で、成長が早く、収量が多く、収穫物の形や大きさにバラつきがなく運搬しやすいものが求められるようになる。
さまざまな在来種を交配して「F1育種」が生まれ、実際に“時代が求める野菜”が実をつけたのだ。しかし、マイナス面もある。
「F1育種は人工的に開発された種ですから二代目は育たない。その作物から種をとって、翌年撒いても同じような実はつきません。それが今の野菜の主流です」と五味さん。
そのF1育種だが、現在は9割以上は中国、南米、アフリカなど世界中からの輸入品が占めている。「日本の大手種苗会社の社員が世界中に駐在して、気候変動によって生産地を変え、採種している」という。
優秀な新しい種が開発されるまでには何年も要し、土地も人手もかかる。小さな種の中には遺伝子情報のトップシークレットが詰まっている。だから“種苗法”が存在し、開発者は種苗を育成し販売する独占権が保障されているのだが、それだけに新しく開発された種は常に狙われている。
今年1月にも、常緑キリンソウという、建物の屋上や壁に使われる植物を、神戸市のB社・K社長が、違法で増殖販売していた容疑で刑事事件として逮捕された。
5月、植物を生産していた農場経営者Tは罪を認め、7月、種苗法違反の罪で1年2か月、執行猶予3年の有罪判決が下された。販売に携わったK社長にも早晩、司法の判断が下されるだろう。
「全国の種苗業者、樹木業者が、この裁判の行方に注目しています」と五味さん。
新品種に対する警戒は、国外ではさらに過敏だ。北欧ノルウェー領スヴァールバル諸島のある島に2008年、世界最大の「世界種子貯蔵庫」が造られた。100か国以上の国々の支援のもと、地球上の種子300万種が冷凍保存されている。
「大規模な気候変動や自然災害、植物の病気の蔓延などに備え、常に銃を持った人が警備しています」(五味さん)
話を戻そう。同紙の最新号では、タキイ種苗が発表した〈野菜と家庭菜園に関する調査〉を伝えている。大人も子供も好きな野菜のナンバー1は、7年連続でトマト。
「昔と比べてトマトは青臭さが抜けて、甘さが増しています。ほかの野菜もみんな食べやすくなったと思いませんか?」
なるほど、子供の頃、毛嫌いしていた野菜を「美味」と感じるのは、記者の味覚が成熟したから、ではないらしい。
「品種改良は野菜の嫌われる要素もなくしていったんです。ですから今の子供には、にんじんは嫌いな野菜の上位ではありません」(五味さん)
と、そのとき、ふと目を落とした紙面に、新種のキャベツの名前を発見。思わず頬が緩んだ。「若女将」―─まろやかでやわらかな葉を巻くことから、生産者が命名したそう。
最後に、私たちが野菜づくりを始めようとしたらどうすればいいか聞く。
「種や肥料を買う前に、まずは種苗の専門店に行くことです。そこで相談すれば、何でも教えてくれます」
心強いお言葉が返ってきた。
■取材・文/野原広子
※女性セブン2015年10月15日号