人気脚本家・三谷幸喜の活躍ぶりが最近、何かと話題だ。烏龍茶のCMで女装姿を見せたかと思えば、自ら脚本を手掛けたNHKの大河ドラマの会見に乱入して注目を集めることも。三谷の面白さの秘密とは? コラムニストのペリー荻野さんが綴る。
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久しぶりにCMを観て、笑ってしまった。三谷幸喜が出演する烏龍茶『つむぎ』のCM「いろんな食事に合う篇」。
日本の茶葉で作られた烏龍茶がさまざまな料理にも合うことをアピールするため、三谷は最初の場面では、丸メガネに詰襟、昭和の書生のような学生服姿で、学食のカツカレーをパクパク。皿の横にはもちろん『つむぎ』。二番目の場面では、ちょびヒゲにメガネ、クビにタオルをかけた作業服姿で、定食屋のタンメン(?)をズルズル。丼の横にはもちろん『つむぎ』。
そして第三の場面では、「犬神家の一族」の松子のようなこんもりとした銀髪アップに指には巨大な真珠の指輪、上品な着物姿で、箸でてんぷらをつまむ。もちろん、傍らには『つむぎ』。笑ったのは、何気に女装していたおばさま姿がとても似合っていたことだ。このまま歌舞伎座の客席にいても、気づかれないと思う。
ひとりの俳優が、いろんな職業に扮するCMといえば、『つむぎ』と同じ日本コカ・コーラの山田孝之の『ジョージア』がある。山田はこのシリーズで、ざっと思い出せるだけでも、大工、営業マン、警官、ラーメン職人、バイク便ライダー、トラック野郎、海の家のお兄さんなどに次々変化。ついにはコロンビアで原料のコーヒー豆を収穫する現地の人にも扮して、「さすが俺の豆だ…」と真っ黒なヒゲの口元をにんまりさせたりする。すごいなりきりぶりである。ひょっとして三谷幸喜のなりきりは、山田孝之への挑戦なのか!?
三谷といえば、来年の大河ドラマ『真田丸』執筆でとてつもなく忙しいはず。だが、話題作りにも余念がなく、先日、NHKで開かれた『真田丸』の記者会見では、記者席から突如「西日暮里壁新聞の記者です」と手をあげた三谷は、淀殿役の竹内結子に質問。
「台本は遅く届いた方が悩む時間が少なくてすむ?」と問いかけ、竹内にあっさりと「早く欲しいです」と返されたという出来事も報じられた。私はここでピンときたのである。ひょっとして三谷幸喜は、自らも大好きな戦国ドラマに出演を画策しているのではないか?
戦国ものでは、これまでにも俳優として大河ドラマ『功名が辻』に室町幕府十五代将軍足利義昭役、フジテレビ『女信長』に今川義元役で出演している。ふたつの役に共通しているのは、戦国でもっともトホホなイメージの役ということだ。足利義昭はお飾り将軍で信長に反抗してトホホ、今川義元は大軍で絶対勝てると思っていた信長に討たれてトホホ。史実はともかく、三谷版義昭と義元はかつてないほどにトホホ度が高かった。しかし、『真田丸』で同じ役というのもつまらない。ならばいっそ、『つむぎ』で見せた女装技を活かして、淀殿らの「乳母」役などいいのではないか。
今年の大河ドラマ『花燃ゆ』にも、長州藩の大奥に銀粉蝶、鷲尾真知子らベテラン奥女中がいたが、そこに何気なく三谷の奥女中が混じっているところを想像しても何の違和感なし! 大丈夫!! こんな太鼓判を押されて誰が喜ぶのかとも思うが、古くは放送作家から「意地悪ばあさん」に主演した青島幸男の例もある。ぜひともこの路線(勝手に女装を路線にしてますが)も発展させてほしい。