8月12日に中国・天津の化学工場で発生した大爆発事故は、被害を受けた面積が約20平方キロ(東京ドーム1500個以上)に及び、中国経済に深刻な影響を与えている。政府が情報統制の姿勢を強める中、事故の“爆心地”への潜入に成功したジャーナリストの相馬勝氏が、爆発事故の処理に追われる中国政府の対応について解説する。
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事故後1か月以上経ったいまも爆発原因は解明されず、事故現場の後片付けも終わっていないというのに、天津市当局は9月上旬、この爆発跡地に「生態公園」(エコパーク)を建設する計画を明らかにした。
計画では、公園内に犠牲になった消防士らを悼む英雄記念碑のほか、幼稚園や小学校を建設するとしており、11月にも着工し来年7月に完成する予定。だが、ネット上では「責任追及が先だ。そうでないと、亡くなった消防士の無念さはいかばかりだろうか。彼らの霊が浮かばれない」「まだ残留化学物質があるのに、幼稚園や小学校を建設するのは非常識過ぎる」などとの批判の声が上がっている。
公園案は民衆の不満を抑えるための習近平指導部の浅慮ともいうべきものだろう。住民はおろか、中国の国民も事故原因の究明を望んでいる。なぜならば、北京でも上海でも、全国各地で天津市のような不法な危険物の大量貯蔵が進んでいるとされるからだ。
これを裏付けるように、天津市の大規模爆発の10日後の22日夜、山東省の化学工場でも大規模な爆発があり、工場の従業員1人が死亡、9人が負傷し病院に搬送された。さらに、23、24日にも2件の工場で立て続けに事故が起こるなど、8月だけでも計6件の爆発事故が発生した。
また、米政府系報道機関「ボイス・オブ・アメリカ」によると、昨年1月から今年8月末までの間に30件以上の爆発事故が起きており、「天津の大爆発は氷山の一角にすぎない」と国際的な環境保護団体「グリーンピース」は警告している。
筆者が北京で会った外交筋は「今回の事故は氷山の一角といえる。この事故の後に、山東省など6か所で同じような爆発事故が起こっていることからも明らかだ。このような大災害を繰り返さないためにも、事故原因の隠蔽は許されない」と指摘する。
習近平指導部は急激な経済発展の陰で見逃されてきた、ずさんな化学薬品の管理などの“人災事故”に今後も悩まされ続けることになろう。
※SAPIO2015年11月号