川崎市の老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で起きた連続転落死事故は、外観がきれいで経営母体も大企業だったホームで起きたため、衝撃をもって受け止められている。しかし、こうした高齢者向け施設は、通りいっぺんな確認だけではわからないものである。同施設でも、職員による虐待などが報告されている。いわゆる「ブラック介護」が横行する危険な老人ホームをどうしたら見分けられるのか、介護ジャーナリストの小山朝子氏に聞いた。
実際に入居者がいるフロアに足を踏み入れたら、視覚だけでなく、嗅覚も使わなければならない。玄関口ではわからないが、フロアや入居者の居室からアンモニア臭などが漂っていれば、排泄物の処理などが適正に行なわれていない可能性がある。入居者の入浴がおろそかにされているために、体から臭っていることも考えられる。
「要は衛生管理や消臭がきちんとできていないということです。また、共用スペースが臭ければ、居室を開けっ放しで排泄介助をするなど、入居者のプライバシーも守られていないかもしれません」(小山氏、以下「」内同)
実際に父親を老人ホームに入居させている人からは、こんな声が聞かれた。
「父は大便をもよおすとベルを押してスタッフに来てもらい、トイレに移動させてもらって用を足すんですが、ベルを押しても職員がなかなかきてくれない。それでお漏らししてしまうことが多く、室内はいつも便臭くて不衛生でした」
入居者自身の“臭い”では、口臭も重要なポイントだ。
「実際に入居している人と話してみて、口臭がきつければ、口ケアがされていない証拠です。口腔ケアは今、高齢者の健康問題のカギとして注目されています。食後にしっかりとケアしないと、食べ物の残滓が誤って肺に入って肺炎を起こしてしまい、肺炎は高齢者にとって命取りになるからです。認知症予防にも口ケアが効果的だといわれています」(前出・小山氏)
逆に、“キレイ”だからいいというわけではないこともある。前出・小山氏によると、「何もなくてキレイ」な居室は怪しいという。
「例えば、転倒の危険があったり、徘徊してしまうような入居者の部屋の床には、『離床センサー』といって、ベッドの下にワイヤレスのマットを置き、それを踏むとナースコールなどで知らせる対策装置を使用しているところもあります。
また、居室を見学した際に、壁の飾りや置いてある物などに、その人らしい部屋づくりを見ることができれば、個性や生き方が尊重されていることの判断材料になる。逆にベッドと食事台など最低限のものが置かれているだけの殺伐とした居室だったら、入居者ひとりひとりが大切にされていないと考えられます」
※週刊ポスト2015年10月16・23日号