総理大臣は1つ大きな仕事をやり遂げると燃え尽きるもののようだ。
「一内閣一仕事でいい」といっていた竹下登首相(在任1年半)は、その言葉通り1989年に消費税を創設するとリクルート疑獄の中で退陣し、細川護熙首相(在任9か月)はこの国の政治を大きく変える小選挙区制度を1993年に導入後、まだ支持率が50%前後あったにもかかわらず退陣を表明した。
対照的に、長期政権で目標を見失った総理の晩節はあまり見事ではない。
象徴的なのが小泉純一郎首相(在任5年5か月)だ。郵政民営化を掲げた2005年の郵政選挙で大勝利した。ところが、「その後の1年間は政治に興味を失って部下に任せきり」(当時の小泉側近)になり、郵政3事業の利権は民営化推進派によって食い物にされ、後に次々とスキャンダルが発覚して評価がガタ落ちした。
安倍晋三・首相の叔父である佐藤栄作首相は戦後最長の7年8か月の在任期間を誇るが、後半は外交では沖縄密約、内政は公害問題が噴出し、最後は「新聞記者は大嫌いだ」と会見室から全員追い出して1人テレビカメラに向かって退陣を表明した。
高い支持率を誇った中曽根康弘首相(在任4年11か月)は1986年の衆参ダブル選挙で大勝利して総裁任期を1年延長したが、選挙に勝つと欲を出して国民に「導入しない」と公約していた売上税(消費税の前身)の創設に動き、嘘つき批判を浴びて支持率が急落、最後は増税法案も廃案に追い込まれて退陣した。
安倍首相は安保法制を成立させて燃え尽きたが総裁再選でなお3年の任期がある。果たして、「部下に丸投げ」の小泉型か、孤立の佐藤型か、それとも つき増税の中曽根型か。いずれにしても総理大臣は政策目標を定めて目指すもので、安保法案成立で燃え尽きたあとに目標を探すのは国民のためにも本人のためにもいいことはない。
※週刊ポスト2015年10月16・23日号