秋も徐々に深まり、これから学園祭シーズンがやって来る。学園祭の鉄板企画の1つが「お化け屋敷」だが、驚いた入場客は何をするか分からない。お化け役で驚かしたら突き飛ばされた場合、どう対処すべきか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
この夏、ある自治体主催のお化け屋敷のお化け役に応募し、採用されたのですが、カップルを驚かした際に、男性が私を突き飛ばしたのです。幸いケガは負わなかったものの、今後はお客が殴りかかるなどした場合、主催者から警察に通報してもらい、相手方に治療費を求めてもよいでしょうか。
【回答】
暴力は有形力の行使として刑法の暴行罪に当たりますし、ケガをさせると傷害罪で処罰されます。暴力が罪にならないのは、まず外形は暴行でも本人にその意思(故意)がない場合が考えられます。お化けが突然、身近に登場し、咄嗟によけた手が当たったような場合です。殴りかかれば、故意がなかったとはいえません。
次に、故意がある有形力の行使でも、被害者が殴られるのを承諾しているときには、罪にはなりません。しかし、お化け屋敷は観客の意表を突いて恐怖を感じさせる娯楽施設です。観客もお金を払い、驚かされたり、怖がることを目的にお化け屋敷に入場します。ボクシングのように、お化けと戦うためではありません。お化け役も殴られることを承諾していないので、お化け役を殴れば暴行や傷害になります。
なお「急迫不正の侵害」に対するやむを得ない防衛行為は正当防衛として、生命身体財産などに対する現在の危難回避のためのやむを得ずした相当な範囲の行為は、緊急避難とし、いずれも違法ではないとされていますが、お化け屋敷のお化けが怖がらせるのは急迫不正の侵害でも、生命財産等への現在の危難でもないので、これらには当たりません。
よって、お化け役を殴る行為は罪になりますから、警察への連絡は当然です。また、民法上の不法行為にも当たるので、損害賠償としての治療費は請求できます。
さらに、アルバイトでもお化け屋敷の事業主との間の雇用契約に基づく業務上の災害になり、労災保険の対象ですから、治療費等の保険給付を受けることもできます。
非常識な行動をして注目を引こうとする人が少なくありません。この種の事件の発生が予想される場合には、事業主も入場する観客に、お化け役への暴力を厳禁とする警告をすべきだと思います。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2015年10月16・23日号