【書評】『マイストーリー 私の物語』林真理子/朝日新聞出版/1728円+税
【評者】はあちゅう(ブロガー・作家)
本を読む人は、誰しも心のどこかに「自分も本を書きたい」という気持ちを持っているのではないだろうか。
その証拠に、ベストセラーのアマゾンページには普通の人が批評家ぶって「私でも書けます」などと作品をこきおろすレビューが目立つ。「自分も書きたい」という、嫉妬心が無ければ絶対に出てこない言葉だ。
この作品は、出版界を舞台に、誰もが持つ「自分が主人公になりたい」という厭らしさを描き切っている。合間に見える林さんの作家としての矜持も、ファンとしてはたまらない。
「大切なのは自分の臓腑まで見せる覚悟があるかどうか」という登場人物のセリフは、インタビューで語っている、林さん自身の言葉でもある。
私も書くことを仕事にしてから「本を出したい」という人によく会うようになった。
林さんレベルの作家であれば、きっともっと頻繁にそういった相談を受けているだろう。作家ワナビーな人の共通語は「いつか書いてみたい」。「作家に“いずれ”はないんですよ。今書かなくていつ書くんですか」「もの書きになりたかったのなんて…作家になりたい人はとうに書いているわよ」などのセリフも林さんの本音かもしれない。
本を出して、自分の人生や考えへの価値を認めて貰いたい。
あわよくば有名になりたい。
けれど、努力はしたくない。
そんな人々の甘さや、その甘さにすがりついて、「自費出版」をビジネスとして手掛ける出版業界の厳しさ、作家として生きていくことの大変さなど、出版業界のリアルがありありと見える本小説。「本を出してみたい」と思ったことがある人は是非一度手に取っていただきたい。
※女性セブン2015年10月29日号