安保関連法案が成立し、永田町では安倍晋三・首相が燃え尽き症候群になってしまったのかと心配の声が聞かれるようになった。北朝鮮による拉致被害者問題では、北朝鮮が調査の結果を「1年をメドに報告する」と約束したにもかかわらず反故にしたが、これについても「誠に遺憾であります」と述べるにとどまった。
また、安倍首相は9月26日から訪米し、国連総会で各国首脳との立ち話外交を展開した。その中で、自ら朴槿恵・韓国大統領に近寄り、9月初めの朴大統領と習近平・中国国家主席の首脳会談について、「会談の成功をお祝いします」と祝辞を述べた。
この中韓首脳会談は朴大統領が中国の「抗日戦争勝利記念式典」(9月3日)に出席するため訪中した際に行なわれた。しかも、現地で朴大統領は「歴史は永遠に残るものなので、それを認めないのは手のひらで空を隠すのと変わらない」と安倍批判を展開していたからだ。日本バッシングで一致した中韓首脳会談を「お祝い」するのは奇異に映る。
これまでの安倍首相は、「中国や韓国に下手には出ない」という強い外交姿勢を取ってきたことを考えると、これでは“安倍首相らしくない”弱腰であり、こうした点から「燃え尽き症候群」ではないか、との声が出ているのだ。このままでは韓国や中国からも押されまくられることになる。
安倍首相が訪米する直前の9月22日には、サンフランシスコ市議会が「慰安婦記念碑」を建立する決議を可決した。記念碑をめぐっては、韓国側と日本政府が互いにロビー活動を展開したものの、全会一致で可決されて日本は惨敗、市内の公園や広場に記念碑が建てられることになった。韓国側は米国全土での慰安婦像・記念碑建設を戦略的に進めている。
日本政府がインフラ輸出をテコに進める中国包囲網も次々に食い破られそうだ。ベトナム新幹線の凍結に続いてインドネシアでも計画が撤回、今後、マレー半島新幹線計画やインド新幹線計画でも「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)の資金力を武器にする中国に巻き返される可能性が高い。
安倍首相が安保法制で「日米同盟が強化された」と気を緩めれば中韓にいいようにやられて、世界中に中国製新幹線が走り、米国全土に慰安婦像が立てられるのは時間の問題だろう。
※週刊ポスト2015年10月16・23日号