多彩な外国人とともに「日本のクール(カッコいい、優れている物事)」について考える、NHK BSの人気番組『cool japan』。司会を務める作家で演出家の鴻上尚史氏が、番組開始当初に紹介した「クール・ジャパン」について解説する。
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番組開始当初、外国人たちが考える「日本のクール」を聞いたとき、「この番組は成功する」と直感しました。それはマンガでもアニメでもなく、次の3つだったからです。
まずはママチャリ。日本人からすればありふれた日用品の一つですが、特に外国人の奥様がこれに感動。子供用の椅子が前にあるので、子供を見ながら運転できて安心だ、と言うのです(外国のは後ろにしか付いていないそうです)。さらに日本のママチャリは前輪が少し小さく設計されており、取り回しやすいのもミソです。
次は洗浄器付き便座。「お尻を洗う=ホモ」とのイメージで西洋では普及していませんが、日本で初めて利用した外国人は快適さに驚く。最近は中国人の爆買いが有名です。
僕が最も衝撃を受けたのはアイスコーヒーでした。そもそもそれが日本発だとは知らなかった。多くの外国人にとってコーヒーは「香りを楽しむもの」だから、冷やすのは論外。でも、日本ではアイス用の豆を挽いて濃い目に作るなど、美味しいアイスコーヒーにこだわり、やがて世界的に知られ始めた。日本に来た外国人たちは「これは本当にウマい」と思うそうです。
外国人から指摘されると、この3つに込められた日本的な心遣いに改めて気づかされます。それは「痒い所に手が届き、痒くない所も掻いているうちに後から痒かったんだと感じ始める(笑)」ようなもの。外国人から見た日本は、意外なクールに溢れています。
ニューヨーク・ロケでは、米国人の若い女性が「チリチリの天然パーマがコンプレックスだったけど、日本式のストレート・パーマが完全に私の人生を変えてくれた」と幸福そうな笑顔を見せました。日本発の製品・技術・文化などにより、遠い異国に住む女性の人生が笑顔で前向きになる。これぞ、クール・ジャパンの真骨頂です。
※SAPIO2015年11月号