山口組分裂で、ついに殺し合いが始まった。10月6日正午過ぎ、長野県飯田市のホテル前で暴力団関係者の男性が頭部を拳銃で撃たれ殺害される事件が発生、山口組系傘下団体の幹部が逮捕された。男性は新組織・神戸山口組へ移籍しようとしており、トラブルになったという。本格的な抗争勃発に備え緊張が高まるなか、溝口敦氏(ノンフィクション作家)と鈴木智彦氏(フリーライター)、当代ヤクザライターの2トップが緊急対談した。
──分裂は警察の思う壺なのでは?
溝口:確かにそうだし、今回の分裂でますます暴力団は弱体化に向かうでしょう。それが分かっていても、分裂せざるを得なかった。
鈴木:暴力団社会において、今回が「最後の抗争」になるといっても過言ではない。いま双方は抗争に向けてヒットマンを集めていますが、具体的にどこがやるのかと考えると、ごくわずかしか浮かばない。弘道会は山口組の他団体だけでなく弘道会内部でも緩さを認めず、組員を厳しく締め付けていたので、昔気質のヤクザは大方辞めてしまった。一方の神戸側も、引退した組長たちに戻ってこないかと声をかけているぐらいです。
溝口:山健組系健竜会の最高顧問だった三島組・三島敬一元組長などですね。ただ、直系組長OBの一人に取材したところ、彼は戻る気はないといっていました。
鈴木:抗争をやれば、一人でも殺した実行犯は無期懲役だし、カネの問題でもケアしなければならなくなる。
溝口:無期懲役か下手すれば死刑。だからいまは、誰がやったのか犯行の痕跡を残さない殺しのやり方が出来上がっている。ただし、これは抗争の上に立つ者に胆力がなければ出来ません。
鈴木:実行犯は出頭しないから、組織の中にその人間を抱え続けることになる。いつしゃべるかもいつ寝返るかも分からないわけで、爆弾を抱えるようなもの。
溝口:そんな爆弾を抱えておける胆力や経済力を持った組長はいま、いませんよ。合理的に見れば抗争は割に合わないですから。
──それでは抗争にならないのでは?
溝口:なるに決まっている。それが暴力団の習性であり、本能なんだから。
鈴木:だって、水泳の選手は泳ぐじゃない。暴力団が抗争するのは、それと一緒です。
※週刊ポスト2015年10月30日号