年金減に伴う生活苦、高齢者の犯罪、孤独死…。
「先々に希望が持てない日本で貧しくみじめな老後を送るくらいなら、いっそ日本を捨ててしまえ」と、海外へ飛び出す高齢者が近頃、増えているらしい。
彼らは、「脱出老人」と呼ばれている。人々が目指すのは常夏の楽園・フィリピン。日本からは飛行機で4~5時間。月7000円程度でメイドが雇え、物価は日本の3~5分の1。暗いニュースばかりの日本に見切りをつけ、新天地のフィリピンで老後の再起をはかる日本人を追った。
「日本にいたら、スーパーで品出しのバイトでもしていたと思いますよ。ゴルフは高くつくから月1回がせいぜい。旅行代も高いしね。日本では年寄りがやることがないんだよ」
と語るのは2007年に移住した田中登さん(64才)。39才年下のフィリピン人女性と暮らして、5年になる。これまで3~4人のフィリピン人の女性と交際し、お相手はいずれも20代だったという。
「ゴルフの練習場やショッピングモールでかわいい子がいたら、声をかけるんです。日本だと変態おやじだといわれて、ヘタしたら警察を呼ばれちゃうよね(笑い)」
田中さんが移住を決意したのは、25年連れ添った最愛の妻を脳梗塞で亡くしたことがきっかけだった。
車を運転していても、買い物に出かけても、何をしても亡き妻を思い出す。そんな塞いだ日々が2年近く続いたという。そんな折に海外移住に関する本を読んだ。
2004年からフィリピンに住んで、田中さんをはじめ、多くの在留日本人を取材し、著書『脱出老人』にまとめたノンフィクションライターの水谷竹秀さんが、海外移住について説明する。
「通常、移住志願者はネットなどで業者を見つけ、メールでやり取りした後に現地に下見に行き、そこで業者に直接相談することが多いです。住まいをどうするか等のアドバイスもそこで得られます。
フィリピン移住に必要な退職者ビザを取得する場合は、預金を原則2万ドル(約240万円)納める必要があります。2万ドルといっても、フィリピンがいちばん安いですよ。解約をしたら戻ってきますし、タイやマレーシアに比べて安価ですみます」
田中さんは、大好きなゴルフがフィリピンでは日本の10分の1程度でプレーできるという物価の安さにまずは心惹かれた。そして、日本人の経済力目当てに関係をもつフィリピン女性もいるなか、“よき伴侶”と出会えたのだ。
「女房の面影が残る日本にいたら、鬱病になっていたかもしれない。今の恋人はぼくの体を気遣い、塩分控えめの食事を作ってくれる。ゴルフ三昧の日々も最高だけれど、彼女との出会いがフィリピンに来ていちばんの宝。
女房のことは、いつまでもくよくよしていても仕方ない。あの世でぼくの姿をみて喜んでくれていたらいいなあ」
※女性セブン2015年10月22・29日号