昨年12月3日、NHKの夕方の情報番組「ゆうどき」に出演した俳優・宝田明は、『ゴジラ』(1954年)出演時などの思い出とともに、幼少期を過ごした旧満州(現・中国東北部)のハルビンでのソ連軍の侵攻や、命からがら日本に引き揚げるまでの体験を語った。その際の「戦争は絶対に起こしちゃいけない」というメッセージはネットでも大きな反響を呼んだ。ノンフィクション作家の佐野眞一氏が、満州時代の思い出について聞いた。
〈ハルビンにソ連軍が侵攻してきたのは、“玉音放送”が流れて1週間後の8月22日だった。さすが日本を代表するミュージカルスターである。ソ連軍侵攻の様子を身振り手振りを交えて語る宝田の「仕方話」は無類の“エンターテイメント性”があった。〉
「戦車に乗ったソ連の兵隊たちは、全員坊主頭で『シャンゴー、シャンゴー』って言いながら、喉に指を立てるんです。どうやらウオッカくれということらしいんです。すぐ家に帰っておやじの飲み残しのウオッカをもっていくと、がぶがぶって飲んでばかりいる。満州人はその周りで、大きな赤旗をなびかせ、スターリンとレーニンの肖像画を掲げあっている。各種民族入り乱れてめちゃくちゃな状態でした」
──ソ連軍の先頭部隊は粗暴な囚人たちで、女性と見るとその場で押し倒して強姦したといいますね。
「あるとき、満鉄の社宅前で、マンドリン銃をぶらさげたソ連兵が、社宅に入ろうとしていた奥様の髪の毛を引っ張っているところに出くわした。もう胸はどきどきして、何もできないんです。
それでも何とかソ連人憲兵のいる交番まで行って、助けを求めた。『カピタン(署長)、パジャールスタ(助けてください)』と言いながら、現場に引っ張っていくと、もう奥様は下を丸裸にされ、2人の兵隊がズボンをおろして行為の真っ最中だったんです」
──1人の女性が2人の兵隊に?
「その奥様はそれから1年半後、何とか博多に引き揚げましたが、精神がおかしくなってご主人に手をひかれてやっと上陸しましたけどね。ああいう場面を見てしまうと、当然、ソ連憎しという気持ちになります。ひいてはソ連という国全体も否定することになってしまう。だから戦争は、結局憎しみの連鎖しか生まないんです」