多くの人が頭を悩ませている「実家の片付け」。中でも、体力の落ちた高齢の親の身の回りの片付けは、子供たちにとって時間的にも、体力的にも、金銭的にも大きな負担になる。
埼玉在住のA子さん(55才)は自宅から車で2時間ほどの実家でひとり暮らしする母親(82才)が心配でならない。足腰がめっきり弱って外出が減り、軽い認知症の症状も出始めたからだ。
仕事や家事が忙しいA子さんが時間を見つけて実家に帰ると、ゴミ出しが億劫になったのか、玄関にはゴミ袋が溜まり、寝室のベッドはシーツや枕カバーの洗濯ができていなくて、少しにおう。風呂場もいつから掃除していないのか、ヌメリで足を滑らせたら一大事だ。「親の世話は子供がするべき」と考えて、遠方に住む兄と手分けして面倒をみてきたが、子供たちだけではとても手が足りなくなってきた。
A子さんは認知症の症状が気になり、見守りや通院の介助をヘルパーさんにしてもらおうと「介護保険制度」を申請した。介護保険制度は国が定めた公的な介護サービスのことで、65才以上の人は広く利用することができる。ケアマネジャーに事情を話すと、こんな提案をされた。
「部屋の掃除やゴミ出し、寝具の洗濯なども援助できますよ。いかがですか?」
A子さんが言う。
「実家のこまごました片付けまで保険制度が使えると知って驚きました。金銭的な負担も少ないので、もっと早くお願いすればよかったです」
A子さんのように、「介護保険制度」が「実家の片付け」にも役立つことを知らない人は意外に多い。
介護保険制度では、利用者は実際にかかる費用の1割負担(所得によっては2割)で多様な介護サービスを依頼できる。そのうち、実家の片付けで有効に活用したいのは、「訪問介護(ホームヘルプ)」だ。
『もう限界!! 親の介護と実家の片づけ』(自由国民社)の近著がある高室茂幸氏(ケアタウン総合研究所所長)が解説する。
「訪問介護では、訪問介護員(ホームヘルパー)が高齢者宅を訪れて介護サービスを行います。それを利用すれば、食事や排泄、入浴などの介助を行う『身体介護』だけでなく、掃除や洗濯、食事の準備などの家事を手助けしてくれる『生活援助』も受けられるのです」(高室氏)
『生活援助』が受けられるのは、ひとり暮らしの高齢者だけではない。
「たとえば、同居している家族が、出張が多いなど忙しい仕事についていたり、病気を抱えていたり、高齢であるなどのやむを得ない事情がある場合は生活援助を利用できます」(高室氏)
つまり生活援助とは、介護に直面する家族を助けるサービスでもあるのだ。では、実際にどんなことを支援してもらえるのか。
「生活援助として依頼できることは具体的に決まっています。『掃除』『ゴミ出し』『食事の準備、後片付け』『洗濯』『日常品の買い物』など要介護者の日常生活のサポートです」(高室氏)
そうしたサービスを受けるためには、まずはケアマネジャーに相談し、ケアプランを作成する。そのプランに基づいて、居宅介護支援事業所からホームヘルパーが派遣されることになる。
「要介護1~5」の判定を受けている人なら、どんな生活援助のメニューを頼んでも自己負担額は「20分以上45分未満」で約200円、「45分以上」で約250円が基本だ。初回利用や早朝・夜間、緊急時などにはプラス料金がかかる。また、事業所や派遣される地域によっても多少の差がある。
「要支援1、2」の判定を受けている人なら、週1回程度の利用で月額約1300円、週2回程度で約2600円、週3回以上で約4100円が目安だ。
「1回45分以上といっても何時間も頼めるわけではなく、生活援助ならば1回あたり最高で60分程度までの事業所がほとんど。税金が使われているサービスであり、利用に限度はあるんです。どんなに頻繁に利用しても、目安としては、
・掃除は週に2回ほど。
・買い物は週に2回ほど。
・調理は週に5回ほどで、そのときに何食か作り置きしておく。
・ゴミ出しは他のサービスの空いた時間にする。
というところが限度でしょう」(事業所経営者)
もしハウスキーパーに頼んで家の掃除などをお願いしたとしたら、一般に1時間2000~3000円ぐらいはかかることを考えると、10分の1程度の値段でできるということだ。とはいえ、要介護度によって利用できる限度額があるので、その範囲内には抑えなければならない。
※女性セブン2015年10月22・29日号