「去年の夏、玄関のドアからきしむ音が聞こえました。なんだろなァと思っていましたが、まさかこんな事態になるなんて…」(50代男性)
「建て直すといわれても、仮住まいが学区外なら小学生の子供を転校させなきゃいけない。また完成したら戻ってきて再転校でしょ? できれば建て替えはしてほしくないです」(30代主婦)
傾いていることが発覚した横浜市都筑区にある4棟建ての大型マンション『パークシティLaLa横浜』の住民はこう困惑を隠さない。
JR横浜線鴨居駅から徒歩10分。飲食店や衣料品店、映画館が入る『ららぽーと横浜』に隣接する高級マンションだ。2005年11月に着工し、2007年12月に完成、築8年経った今でも人気物件だった。「利便性が高く、資産価値が下がらないということで頑張って買った」(40代男性)という住民も多かったが、今回の騒動は彼らの人生も大きく変える一大事になってしまった。
マンションの「異変」を住民が感じたのは昨年11月だ。傾いた棟と他の棟をつなぐ渡り廊下の手すりが約2cmずれていることに気づき、事業主の三井不動産レジデンシャルが調査したところ、建物の両端で高さが最大2.4cmずれていることがわかった。
ところが、事業主は「東日本大震災で生じたひずみ」と説明するばかり。不信感を募らせた住民は横浜市に相談した。そこで、ようやく棟周辺のボーリング調査が行われ、工事不良が発覚した。
施工業者の旭化成建材によると、マンションの杭約470本中の70本について、地下数十メートルの「支持層」と呼ばれる固い地盤に届いていなかったり、杭を支えるセメント量をごまかしていたなどのデータ偽装が行われていたという。大手マンションディベロッパー幹部が言う。
「旭化成建材は杭70本のデータを偽装したのは、『現場代理人』と呼ばれる責任者の1人だと説明しています。この責任者は正社員ではなく非正規雇用だったようです。杭が硬い支持層に届けば“ガツン”という衝撃があってすぐわかるはずなので、今回、到達させなかったのは意図的であり、犯罪的な行為です。
一口に“杭を打ち込む”といっても簡単ではありません。深さ十数mから100m以上の地中に打ち込むと、杭が曲がったり、折れたりすることが多い。経験豊富な現場責任者ならば上手に杭を打ち込めたり、1本が到達しなくてもその周囲の杭で安全に支えられるように計算して打ち込めるが、キャリアの短い責任者ならうまくいかない。
たくさん打ち直しが必要になり、工期も長引き、建設費も余計にかかることになる。だから、会社から“工期を間に合わせろ、経費を抑えろ”と要求される現場責任者がデータを改竄して、支持層に届いているように偽装したのでしょう」
事業主は住宅の買い取りやマンションの建て替え、その間の仮住まいの費用負担、精神的負担への補償などを検討するというが、それを行うのも簡単ではない。全国紙社会部記者が言う。
「全棟の建て直しを行うなら、全棟705戸の5分の4以上と、各棟の3分の2以上の同意が必要です。施工不良が確認されていない棟の住民はそのまま住み続けたいという希望も多く、住民の意思統一はとても難しい。いざ建て替えるにしても、会社側は『少なくとも3年半かかる』としているので、問題の長期化は避けられません」
※女性セブン2015年11月5日号