ソウルを歩くと似た顔の“美人”ばかりで驚く。それに比べると、日本はまだ“多様性”がある社会のようだが、多方面で進む「日本の韓国化」には注意が必要だと産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘氏は言う。
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見栄え、見てくれ重視は近年、男性にも広がっている。ソウル都心の(有名企業の)IDカード(を首からぶらさげた従業員)の群れを見れば明らかである。みんな背が高くスマートなのだ。170cm以下はまずいないのではないか。韓国のビジネス街には男も女もチビやデブは少ないのだ。
最近の韓国の子どもや若者たち(男)の最大の悩みやコンプレックスは何か? アンケートや相談ごとで見ると「背が低いこと」だという。これは子どもについてのお母さん方の最大の悩みにもなる。そこで背を高くしてくれるといって、密かに特効薬や健康食品、健康器具が話題になり、スネの骨を継ぎ足して長くする手術さえ流行っているとテレビが特集していた。
筆者は長年、ソウルの若者街である新村ロータリーのワンルーム・マンションに住んでいる。周囲に延世大や梨花女子大など大学が四つあり、語学学校など専門学校も多い。マンションには学生をはじめ若者が入れかわり立ちかわりたくさん住んでいる。
その彼らと毎日、朝晩、エレベーターで乗り合わせるが、彼らは男女問わず、乗ってから降りるまでエレベーターの壁についた鏡とにらめっこしている。他人の顔などまったく見ずに、自分の顔だけを熱心にためつすがめつしている。この心情は痛いほど分かる。
現代韓国社会最大の差別は“容貌差別”だからだ。容貌で就職や結婚をはじめ人生の行方が決まる。だから最近は男性も就職シーズンになると整形手術する人が増える。韓国はしばしば外国から“整形天国”などと皮肉られるが、その背景にはものすごく厳しい現実があるのだ。
日本に一時帰国の折、東京の丸の内や大手町、虎ノ門あたりに出かけて感じるのだが、サラリーマンもOLも美醜から体形まで実にデコボコで多様なのだ。これは韓国に比べての話だが、日本社会の人間評価における多様性を象徴しているように思う。これは守らなければならない。
※SAPIO2015年11月号