――結婚しようと思ったのは本を読んで?
夫:それまでいろいろな話をしていましたし、本の存在は大きかったです。内容ではなく、姿勢ですよね。自分が当事者になったときに、本当に役立つものや心から共感できるものがなかったことに憤りをもって、“お金のことや恋愛事情を含めて書き残して、誰かのたたき台にしてほしい”と書いた松さんが、すごいと思いました。
――女性として妊娠のことも考えたのでは?
松:治療で使った強い薬の影響が、体にどう残っているかわからないという話もしたんですけど、「子供を産むための結婚じゃなくて、パートナーシップとしての結婚として考えてほしい」と言ってくれたのですごくありがたかった。私はその言葉で決まりました。しかも、給与明細も全部オープンに見せてくれたので驚きましたね。一事が万事そんな感じで、私が不安にならないようにしてくれるので、すっげ~なって思ってます(笑い)
――病気を抱え、恋愛や結婚に後ろ向きになる女性は多いのではと思います。
松:患者会でいろんな人たちの声を聞いてきましたが、驚いたのは、不甲斐ない夫にストレス抱えているほうが人生に悪影響だからと、離婚を決意する人がすごく多いことです。そういう現実の側面を知って、私はこのままひとりかもしれない。でも自分を偽って誰かに何かの我慢をしながら生きていくより、出会うのに時間はかかっても、自分のあり方をいいと言ってくれる人と生活できるのがベストだと気づきました。
結婚がいいとは一概に言えないと思います。だけど家族がほしいと思っている人は家族を一緒に作っていく人を探すべきだと思う。なんにせよ、自分にとっての幸せの形がわかっていることが、いちばん大切だと思います。
――結婚に際し、病気のことは気にならなかった?
夫:出会った当初、彼女自身が再発のことなどすごく心配していましたが、僕は彼女の本を読んで勉強になったというか、男性としてどう接したらいいかがわかったんです。本人の気持ちとか、治療のこういう段階でこういう苦労があってとか。人がいちばん怖いのは、先が見えない不安。だから今後のことも全然不安がなかったんです。再発したとしても付き添ってあげることはできるなと。
――現在の結婚生活は?
松:別居婚で、東京と大阪で2重生活しています。限られた時間の中で楽しく過ごしたいので、ケンカしたり揉めたことはないですね。職場で結婚の報告をした時、女性の上司が「5年も10年も一緒にいてもわかり合えない人もいれば、会って2、3日だけど通じ合える人もいるのよね」と言うのを聞いて、真理だなって思いました。
【松さや香(まつ・さやか)】
東京都生まれ。日台ハーフ。日本航空の機内誌の広告営業から、リクルートの情報誌「ゼクシィ」で念願の編集職に転職。正式採用の矢先、乳がんを宣告される。闘病、治療費事情、仕事、失恋体験を赤裸々に綴った著書『彼女失格』には映像化オファーが寄せられている。