日本の総理大臣の演説力はどの程度のものなのだろうか。現在の安倍晋三氏に至るまで戦後の総理大臣33人が国会で行った所信表明・施政方針演説を集めた『1945~2015 総理の演説 所信表明・施政方針演説の中の戦後史』(バジリコ株式会社)の監修・解説を担当したベテラン政治ジャーナリストの田勢康弘氏が日本の政治家の演説について語った。
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佐藤栄作から安倍晋三まで延べ25人の総理大臣を取材してきましたが、そのなかで比較的上手いと言えるのは佐藤栄作、三木武夫、中曽根康弘、小泉純一郎。議場でよく声が通っていたし、抑揚や間の取り方が上手でした。僕が評価するベスト1は大平正芳です。言葉の前に「アー」とか「ウー」とか言うので「アーウー総理」と揶揄されましたが、言葉そのものに力がありました。歴代総理のなかでもっとも言葉にこだわっていたと思います。
街頭演説での面白さに比べ、国会演説はさほど上手くなかったのが田中角栄。ダミ声で、何を言っているのか聞き取りにくいのが欠点です。
どの総理の演説も土台の部分は官僚の作文ですが、それでも総理の個性は反映されます。例えば、「~しようではありませんか」という呼び掛けのフレーズを使い始めたのは小泉純一郎。国民を意識した劇場型政治らしいと言えます。
呼び掛けのフレーズは鳩山由紀夫も多用し、安倍晋三も使いますね。菅直人は、短くですが、自分の生まれ育った環境や、政治家になった経緯を話しています。国会演説としては珍しいです。
●文/鈴木洋史(ノンフィクションライター)
※SAPIO2015年11月号