2010年に出版し、ベストセラーとなった著書・『私塾・坂本竜馬』が文庫化された武田鉄矢さん(66才)。その発売を受けて、自身が家族をテーマに語るシリーズ。今回は武田さんが自らの体験と反省に基づき、上手な親子関係の築き方、親孝行の方法について語ります。
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ぼくの両親はすでに他界しています。その体験から学んだのは、父親と母親、それぞれ親孝行の仕方が違っていい、違った方がいいということ。
「威厳がなければ父親ではない」と思う人は多いのではないでしょうか。
『女性セブン』の読者世代の父親は、もうそうであってはいけないと思うんです。正反対にかっこ悪い父親であることこそ幸せなんだと知ってほしい。
というのも、最後まで尊敬に値する父親たろうとする男たちの晩年は、あんまり幸せじゃないような気がします。
うちの親父は死ぬ間際まで意地を張り通して、一生懸命かっこいいところを見せようとしてた。ぼくが病院に見舞いに行っても、「おれはいい。隣の人が死にかかってるから、お前がひと声かけて、サインでもしてやれ。元気が出るから」ということばかり言っていた。そのくせ、ぼくが帰ろうとすると、博多弁で「もう帰るとか」とうっすら目の奥に涙をためてたんですね。
本当は「もっといてほしい」「さびしい」と、親父は言いたかったかもしれない。親父は「強い父親像」を守ろうとしていて、無理したまま亡くなったんだと思います。そういう親の心を、ぼくはどこかわかっていながら、認めず放っておいた。いまだにぼくは息子として親孝行ができなかったと悔いています。
じゃあ、何が親孝行か。ぼくは父親がさびしさや悲しさを少しでも出したときに、否定せず認めることだと思うんだ。だから、みなさんは強がっている父親の威厳をなくしてあげてください。
一方、母親は父親と違って、決して敗者にさせてはいけない。子供が勝者であるっていうことを好まないんですよね。
母親が亡くなる数か月前、ぼくに車を買ってあげるって言ってくれました。そのとき、お金を出させるのは忍びないから断ったんです。そしたら母親はぼくの姉たちに「鉄矢はかわい気がない」ってこぼしたそうです。
ぼくは母に母親であることをまっとうさせてあげられなかった。 それを経験して、母親に働かせないとか、楽をさせようとかって思うと、逆に、それが母親の役を取り上げることになるんだと学びました。ずうっと子供でいること、それがいちばんの母親孝行だと思います。
父には、敗者として認めてあげる、母親とは「今日も引き分け」だった――そんな関係が続けば、親も子も幸せなんじゃないかな。
※女性セブン2015年11月5日号