通算12年間でリーグ優勝7回、うち日本一3回。輝かしい成績を残した名将・原辰徳監督の後継者に選ばれたのは、監督候補として名前が挙がり続けた「昭和の怪物」ではなく、40歳の現役外野手だった。あれほどまでに「次は江川卓監督」といわれていた人事が、なぜ急転直下、高橋由伸監督の擁立に決まったのか。
江川氏は今年の5月に還暦を迎えた。引退後、これまでユニフォームに袖を通したことはない。野球人たるもの、せめて一度だけでも──そんな思いがあったはずだ。おそらくは今回が、年齢的にもそれを実現できる最後のチャンスだった。
「江川氏を推していたのは日テレの関係者だったといわれています。視聴率の落ちている野球中継のテコ入れのために、自前の評論家である江川氏を送り込みたかった。話題性は抜群だし、一連の“次は江川”報道に対するファンの反応も良好でしたからね」(球界関係者)
ただ、江川氏にはこのタイミングで数々の不運が重なった。なんといっても10月頭に発覚した、野球賭博問題が影を落とした。
「結論からいうとこの問題によって、巨人としては内部昇格しか選択肢がなくなった。日本野球機構による調査が依然進んでいて、これからどんな事実が出てくるかわからない。しかも内容が内容だけに、球団の存亡にすら関わる可能性がある。情報の管理がいつにも増して重要になる時期に、OBとはいえ部外者を入れるのは決して得策ではない」(同前)
それに巨人にはトラウマがある。あれだけクリーンなイメージのあった原監督が、元暴力団員に1億円を渡していたという事件だ。“身体検査”するとはいえ、リスクは最小限に抑えたい。内部の人間でと考えるのは不思議なことではない。
さらに事件が解決したとしても、巨人としては今回のスキャンダルによる膿を出し切り、新しく生まれ変わったことをアピールする必要がある。
「その際に“昔の名前”であり、しかも“空白の1日”事件で悪役になった江川氏よりも、若く爽やかなイメージの高橋のほうが適任だった」(同前)
※週刊ポスト2015年11月6日号