【書評】『仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』横田増生著/小学館/本体1400円+税
【著者プロフィール】横田増生(よこた・ますお):1965年福岡県生まれ。関西学院大学卒業。物流業界紙を経てフリーに。著書に『ユニクロ帝国の光と影』(文春文庫)、『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』(朝日文庫)、『評伝ナンシー関 「心に一人のナンシーを」』(朝日文庫)など。
【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)
ネット通販が急増し、今や宅配は欠かせぬ社会インフラとなった。だが、立場の強いネット通販業界から運賃叩きを受け、〈豊作貧乏〉状態にあるのが実態だという。
その皺寄せは荷物の仕分けや配送の現場にくる。そこに潜入して自ら労働を体験し、現場を生々しくルポしたのが本書だ。ちなみに著者は、以前アマゾンジャパンの物流倉庫で潜入労働し、厳しいノルマとコンピュータによる徹底管理を白日の下に晒した実績がある。
今回著者は、ある物流ターミナルで働いた。勤務時間帯は午後10時から朝6時までの夜勤。その時間帯に仕分けが行われるからこそ、今日注文した荷物が翌日配送されるのだ。
時給1275円で、働く人の半数程度がアジア系外国人だった。ある時間になると荷物が急増し、現場は目が回るほど忙しくなり、管理者の怒号が飛んで殺伐とした雰囲気になる。
そんなとき、荷物の箱に貼られた「天地無用」「ワレモノ注意」「ナマモノ」など、扱い方に注文を付ける様々なシールを見ると、神経を逆撫でされたという。
著者は家庭などに荷物を届ける集配車にも同乗し、何人ものドライバーを取材した。
「時間指定」「クール便」「代金引換」などサービスメニューが増えて仕事が細かくなり、一方共働きが増えるなどして再配達も多くなったため、ドライバーの多くは月に数十時間のサービス残業を強いられる。
車を止めて食事をする余裕はほとんどなく、運転しながらバナナなどをくわえて食べることが多い。社会インフラはぎりぎりのところで成り立っている状態なのだ。
ワンクリックで荷物が届く便利な世の中だが、荷物も人もワンクリックで動かない。ネット時代の労働の過酷さを思い知らされる。
※SAPIO2015年11月号