今年で放送開始から70年目を迎えた『NHKのど自慢』。
「素人の歌声が放送されることが、画期的だったんです」と語るのはテレビ文化論が専門の社会学者・太田省一さん。
「敗戦直後、NHKの若手局員2人に復興のための番組企画が命じられ、誕生したのがプロの歌う『紅白』と、素人に初めてマイクを開放することになる『のど自慢』。素人のヘタな歌など放送すべきでないと、『のど自慢』企画者は猛反発を受けましたが、軍隊時代、宴会が張り詰めた心を癒した経験から、“素人だから面白い”と粘り強く説得。蓋を開けてみれば大盛況だったわけです。自ら歌い、人の歌に手拍子するあの高揚感。歌うことは自己表現であり喜び。その喜びをシンプルに番組に反映したのが長寿の理由でしょう」(太田さん)
そして、毎週欠かさず見て、おもろいキャラを観察し、人間ドラマに涙するというのが、桂三度(46才)だ。
「テレビってどうしても制作側の作為が入り込むものですが、『のど自慢』はかなり純度の高いドキュメンタリー。こんな人間おったんかー! と叫びたくなるような人が毎週、真剣に歌ってる。作りモノでない本物の人間図鑑を楽しむのがこの番組の醍醐味です。
ある日の回は、90才超えのばあちゃんが椿の花を髪に挿してご機嫌で歌ってるけど、音も速度もどんどんずれる。生バンドが速度を合わせ、司会者も会場も視聴者も全力で応援してる気迫が画面から伝わる。それでも非情に鐘1つ。どよめきと安堵の笑い…。番組と一緒に楽しめるこんな興奮、なかなかありませんよ!」
ちなみに、『のど自慢』は師匠である桂文枝の『新婚さんいらっしゃい!』(テレビ朝日系)と放送時間がかぶるため、毎週録画でチェックしているという。
※女性セブン2015年11月5日号