韓国では入試のある年末に学生の自殺が多く報じられる。受験失敗後に将来を悲観し、自ら命を絶つのだ。実際、韓国で行われた「子供の幸福度調査」で自殺傾向があると判断された15~19歳の子供の半数以上が悩みとして「学業成績と大学受験」を挙げる。
「それでも親は『近所の○○さんはソウル大に受かった』と子供に強烈なプレッシャーをかける。成績以外の個性を伸ばそうという発想が非常に少ない。部活動で青春を謳歌する日本の高校生活を羨ましく思っている学生は多い」(韓国人ジャーナリスト)
過剰な受験戦争と学歴差別という社会の歪みから現在、韓国では公務員志望者が急増している。韓国の社会問題に詳しいライターは語る。
「財閥系企業はじめ、民間企業は有名大卒ではない希望者のほとんどを書類選考で落とすが、公務員試験なら学歴差別がなく無名大学出身でも実力で合格できる。不況もあり、公平感のある公務員試験に受験者が殺到している」
最近は就職難で有名大学を出ても仕事がなく、高卒資格の仕事に応募する大卒者まで出現した。「学歴のダウングレード化」が進む中、新たな差別が生まれつつある。
「高卒資格の職場では、同年代ならキャリアのある高卒者のほうが地位が高い。こうした職場で大卒者は、『あいつら○○大学を出ても俺らと一緒かよ』と高卒者からいじめられる逆差別も起きています」(同前)
就職難や失業から、留学経験があるのに畑違いの飲食店で働いたりする若者も増加中だ。『「反日モンスター」はこうして作られた』(講談社+α新書)の著者で韓国人作家の崔碩栄氏は、子供の頃から1日12時間、勉強するだけの青春を送り、高い教育費をかけて大学に入っても、専攻した学問と関係ない職に就かざるを得ない現状をこう嘆く。
「目や鼻のかたちを画一的に整える美容整形同様、韓国では社会的に求められるスペックが決まっている。学歴はその最たるものであり、韓国人が学歴に投じる多大な時間とカネは無駄です。他の選択肢を認めず、“学歴がないと差別される”という強迫観念が学歴社会をより強固にしている」
不寛容で無意味な差別が自由な発想を妨げ、イノベーションの可能性を潰す。すると社会が硬直化し、ますます成長や多様性への道が閉ざされる。韓国社会を他山の石として、日本が学ぶべき点は多い。
※SAPIO2015年11月号